この連載のおかげか、最近よく「海外で仕事をしたいのですが……」といった相談をいただくようになりました。僕のような人間が個人でお手伝いできることには限界もありますが、もっと多くの日本の優秀なタレントが海外でそのクリエーティブを活かす姿をみたいので、できる限りご協力するようにしています。今回はそんな、ちょっとでも「海外に挑戦したい」と思っている方々に、いま僕の周りで求められている人材や、挑戦するにあたって必要になることをお伝えできたらと思いキーボードに向かいました。
まずひとつ、海外のエージェンシーで働く上で日本と大きく違う点は、こちらでは会社を渡り歩くのが普通だという点です。3年も同じ会社にいると古参となります。もちろん一社に尽くすことにもメリットはあるでしょうし、片やただ出世のために会社を移るような輩が出てくるといったデメリットもあるかと思います。
でもこの新陳代謝の早さには、自然と豊富な人材交流が生まれるといったすごく大きなメリットがあるようにも感じています。そのおかげで、会社をまたいでたくさんの友人やコラボレーターがいたりして、ある種の社外クリエーティブネットワークを作っています。面白い仕事をしていれば、すぐに共感できる人とつながれるし、より面白い機会に巡り合える。さらにはみんな次に行くためのブックを充実されるために、常に必死でクオリティの高いアイデアを考えていかなくてはならず、緊張感を持ったとても健やかなクリエイティブ環境を生んでいると感じています。
そんな環境の中、今こちらの多くのエージェンシーで求められているのは、とても平たく言うとインタラクティブとトラディショナルを両方とも使いこなせる人材。理想的にはそんな棲み分けをするべきではないのですが、あまりにもその二つの間にギャップができてしまっているので、 組織的にはステップとしてその二つをまたいでアイデアを出せたり、ブリッジできたりする人が必要とされています。
でも僕個人的にはそんなの当たり前だと思っていて、その上で自分のコンテンツを作れる能力を求めています。以前も書きましたが、僕自身もアムステルダムの180(ワンエイティー)以降、新たな会社に採用される際には常にミュージックビデオやプロダクトなど、僕が広告だけではなくコンテンツも作ってきた能力を高く評価してもらっているように感じます。そんな人材の例で、友人のJoseph ErnstとJustin Gignacのポートフォリオサイトをご紹介します。Josephも時期は違いますがBBHやワイデンを経て、今はロンドンの4Creativeという会社でクリエーティブディレクターをしています。彼は広告の仕事も素晴らしいのですが、何より僕と同じようにサイドで精力的に面白いプロジェクトを立ち上げている姿にいつも刺激を受けています。彼に出会って友達になったのはアムステルダムのBoekie Woekieという本屋さんで彼が個展をしているときで、そこで見せられた「WORDS」という本にクラクラきたからでした。最近ではFEEDERというショートフィルムを監督していて、それは口の中に入れるカメラも自作しています。
一方のJustinはニューヨークのアートディレクターで、広告のフリーランスをしながら奥さんと二人で面白いプロジェクトをたくさん立ち上げています。有名なものだと「New York City Garbage」というニューヨークのゴミをお土産として売るプロジェクトや、「Wants for Sale」という 絵画プロジェクトがあります。どれも鼻血が出るほど素敵なアイデアです。(次ページに続く)