この度の東北地方太平洋沖大地震(東日本大震災)にて被災されたすべての地域の皆様ならびにご関係の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。本記事は災害時の情報伝達や収集に関してのあり方を考えたものであり、特定のサービスを推奨、批判するものではないことをお断りします。
初期の情報収集に役立った「ワンセグ」
大規模災害ではまず、正確な情報が必要不可欠である。今回の震災では様々な通信手段が用いられたが、特に初期の情報把握や安否確認ができないために、混乱した面があるだろう。今回起きた事象を検証し、繰り返さないための方策を提案したい。
地震発生でまず収集するのは「何が起こったのか」についての情報であろう。ここで思わぬ威力を発揮したのが、「ワンセグ」(携帯端末向け地上デジタル放送)であったようだ。屋外に避難している場合にはインターネットが使えない状況が多い。携帯電話も回線がパンクしているので、筆者を始め多くの人がワンセグで情報を収集していたようである。ワンセグは放送であるので、受信環境さえあれば誰でも情報にアクセス可能である。通信キャリアのログにもそのような傾向が表れているということである。
次に収集するのは、家族などの「安否情報」だろう。このとき役に立ったのが「固定電話」「IP電話」と「ソーシャル・ネットワーク」ではなかろうか。筆者も徒歩で帰宅途中に、「公衆電話」から家に電話をし、家族の安否を確認することができた。そして帰宅してからインターネット接続ができるようになり、ソーシャル・ネットワーク上で知人の安否を確認することができたのである。ソーシャルネット上には「IP電話で連絡取れました」といった内容が多かった。ソーシャル・ネットワークの「mixi(ミクシィ)」は、友人である「マイミク」の最終ログイン時間を表示し安否確認に役立てられる仕組みを公開した。
「携帯でIP電話」が非常時に有効
では、なぜ携帯電話の回線がパンクする中、インターネットの通信は安定していたのであろうか?
それは通信方式にある。インターネットの通信の基本であるパケット通信は、情報を小さい小包(パケット)にして送信して、受け取り側で再構築する仕組み。利用できる帯域をフルに使って効率よく通信できるために、大容量の通信に適しているのである。IP電話はインターネットの通信技術によるものなのでパケットを利用している。
一方、携帯電話は1対1の通信を接続し、その数の上限がある。正確な例えではないかも知れないが、インターネットはトラックで大量の小包を届けるのに対して、携帯電話はタクシーで個別に届けるような仕組みである。同じ道でもどちらが多くの小包を届けられるかは一目瞭然であろう。そして携帯では、タクシーが渋滞しないように通行制限をかけているのである。
このような特性を考えると、「非常時に限り携帯電話でIP電話を使えるようにする」仕組みは考えられないだろうか。もちろん、これは非常時に限定して構わないだろう。利用できるWiFi(ワイファイ)ステーションの確保も必要になる。ただ、すでにau(KDDI)のアンドロイド端末はスカイプを搭載していることからも、技術的には可能であると考えている。
この記事を目にした業界関係者は是非、未来に起こりうる事態を想定し、実現の方法を模索していただきたいと考えている。
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