一度の発生で日本を破綻させるリスクの再検証を
東京電力が福島第一原子力発電所での危機対応のために配備していたのは、担架1台、衛星電話1台、防護服50着。今回起きたような事故はまったく想定されていなかったことが明らかになった。
筆者は過去において長い間、外資系保険会社の損害サービス統括部門に在籍し、特に企業の危機管理業務に精通している。大規模事故(catastrophe claim)を担当し、世界中の同種同様の事故の特性を把握し、幾つかの重大事故が企業や国のインフラを脅かすことを認識していた。
海外において、巨大リスクと言われる絶対免責リスクの中には、戦争危険、ITにおける2000年問題、原子力リスク、テロ、感染症などがあるが、これに準じて拡張担保と言われる高度巨大リスクの中に地震の揺れ、地震による火災、地震による津波リスク、地震の液状化現象などが含まれている。
今から5年前、日本中の対象建物・インフラを分析した際、福島第一原子力発電所も地震による津波リスクで最高レベルの危機の可能性を示唆するデータを有していた。その評価指標に三陸沖のプレート境界地震の予想が含まれていたことは言うまでもない。
日本では海岸線から5キロメートル以内(津波や液状化現象の影響範囲)に設置された重要拠点が意外にも多い。今後、こうした拠点のリスクをいかに回避すべきかを検討する時期が差し迫っている。
今後、想定されている東北地方太平洋沖地震の余震や東南海地震では、これら地震の揺れや津波、火災に加え、東京湾沿岸の土壌による液状化現象(soil liquefaction)や活火山・休火山の噴火などが甚大な損害・損失を与えると予測されている。
地震は、発生したエリアの建造物の倒壊・崩落・火災・有毒ガス・液状化などの直接的損害・損失だけでなく、日本国全体の金融システム、医療システム、物流システム、通信システム、首都圏機能、ライフラインを奪う危険を有しており、対策の規模は広範囲に及ぶ。
我々は、このリスクを「今そこにある危機」(Clear and Present Danger)として再認識する必要がある。
かつてチリの地震が、戦争危険ですらぐらつかせなかったロンドンにおける再保険機構ロイズを破綻させる一歩手前まで脅かした事実を忘れてはならない。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第20回 「Emergency Plan(緊急対応計画)を持たない日本の孤立化」(3/31)
- 第19回 「危機管理の原則はサバイバル 最終的には自身で判断を」(3/23)
- 第18回 「災害時の企業広報と経営トップの心構え」(3/14)
- 第17回 「米国で見た災害時の企業のCSR活動」(3/10)
- 第16回 「ニュージーランド地震に学ぶ」(3/3)
- 第15回 「犯人に告ぐ! 愉快犯に対する伝説の緊急告知」(2/24)
- 第14回 「世界の政治的均衡に革新的変化をもたらすSNS」(2/17)
- 第13回 「2011年、ISO26000でCSR報告書の流れが変わる」(2/10)