商品/サービス自体が持つ「クチコミ能力」を見極める
私が関わった例では、博報堂とティー・ワイ・オー(TYO)が共同事業として1998年に始めた『ペタろう』の例を挙げておこう。この『ペタろう』というサービスは、無料で使える「ネットワーク対応型の付箋紙」でもあり、「表情付きのキャラクター型付箋紙」でもある。これを使うと、同一ネットワークにいれば他のフロアの人ともメッセージをやりとりできるという、オフィスで働く女性たちに非常に人気で数十万のアクティブユーザーを抱えていた。
しかしこの『ペタろう』を普及させるにあたり、大量の広告出稿をしたわけではなかった。当時はこのサービスというものの競合にあたるのは「IPメッセンジャー」と呼ばれるものぐらいで、しかも「かわいい」ものではなかったので、キャラクター要素をもつ『ペタろう』は女性たちに受け入れられやすかったというのもある。しかし、実際には使っていたのは女性たちだけでなく、同僚たる男性たちもいた。つまりユーザーたちは「これ(=『ペタろう』)を使うと自分が便利になる」からこそ、他の人のパソコンにも導入を進めていってくれたのである。
実際、「**さんから電話がありました。お返事くださいとのことです」などと紙に書くよりも、このツールを使ったほうが早く、便利だったので、女性たちの間だけでなく、上司同僚へのメッセージにも使われ、「巻き込み」が発生した結果、「オフィス内限定アプリケーション」としては驚異的な拡がりを果たしたのである。これも商品/サービスそのものが持つ「クチコミ能力」による企みである。
また、商品のパッケージングが「クチコミ能力」を生み出すこともある。私は偶然、『東京たまご ごまたまご』という東京みやげとしても今は有名な銘菓の最初の市場導入のサンプリングに出くわした。いまから何年も前のことである。新商品のスタートなのであれば、駅構内で大々的にポスターを貼るなどなど、いわゆる普通のプロモーションもあっただろうが、この『東京たまご ごまたまご』の場合、無料で実物を紙袋に入れて配っていたのである。しかも2個入りで。この「2個入り」のパッケージというのが非常に肝だったようで、「おいしい!」と思うと、もう1個を残して持って帰ることをする、そして誰かに食べさせるという絶妙な「他の人を巻き込む」という企みだったようだ。このように商品そのものパッケージングが「クチコミの企み」として考えることができる。
どうしても「クチコミを企画しよう」とすると、広告・プロモーションの企みと考えられやすいが、本当は、まずは、「商品/サービスそのものによるクチコミの企み」というものから考えないといけない。もしプランナーであれば、広告主から提示された商品/サービス自体が持つ「クチコミ能力」がないかどうかを見極めるチカラが必要なのだ。そしてそれを補強するために、ないしはそれがないときのために、第二の「クチコミの企み」に手を出すべきなのである。これについては次回。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
- 第15回 ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:1(3/7)
- 第14回 検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観(2/28)
- 第13回 広告主が求めているのは、代理店の新しいメニュー(2/21)
- 第12回 グーグルから学んだこと――広告ビジネスのイノベーション、そして広告人としての個人的興味:3(2/7)
- 第11回 グーグルから学んだこと――広告ビジネスのイノベーション、そして広告人としての個人的興味:2(1/31)
- 第10回 グーグルから学んだこと――広告ビジネスのイノベーション、そして広告人としての個人的興味:1(1/24)
- 第9回 消費者行動の再考--コンテクストプランを考えるうえで(1/17)
- 第8回 メディアの「エンゲージメント」を活かすという視点(1/11)