上に列挙したアワードのいくつかの審査を経験してきて感じたことは、当たり前ですがちゃんと商品やブランドに落ちているアイデアが評価されるということ。見た目は面白いけど大して商品と関係ない表現や、ただ流行のツールや表現を使っているものはむしろ忌み嫌われて早い段階で落とされます。ちゃんとメッセージを伝えるアイデアとクラフトのバランスがとれている作品が選ばれます。当然ですね。
評価のときによく議論になるのは、応募作品のプレゼンテーションです。やはりきちんとコンセプトが説明されていたり、ケーススタディが判りやすい作品の方が見栄えもいいし、理解してもらいやすい。近年はビデオのケーススタディをつけることがほぼマストになってきています。広告を制作しているタイミングからケーススタディ用のビデオを並行してプランニングし撮影するような場所もあるようです。
僕もでき上がったキャンペーンを判りやすく見せるやり方には賛成なのですが、今はむしろそれが行き過ぎていて、アワードのプレゼンテーションにばかり力を入れるエージェンシーが増えてきていて、それはそれで疑問視されています。もちろん作品をきちんと記録してプレゼンテーションすることは大切なのですが、あまりにもエディットされすぎていて本当にそれが広告としてどのくらい機能したのかが見えにくいことがあります。審査員としてはそういったまやかしを見通して評価をしないといけないといつも肝に銘じています。ただ、やりすぎも良くないけど、逆にプレゼンテーションが下手なのも問題で、有名なNIKEの広告もビデオが意味不明だったせいで賞を逃すといった事態を目撃したことがあります。そういうのはすごくもったいないですよね……。
と、長々とアワードについて書いてきましたが、そもそも僕らは賞をもらうために広告を作っているわけではないし、絶対そうなっちゃいけない。依然としてアワード用の「スキャム広告」などが散見されますが、ホントにそういうアイデアとお金の無駄遣いはやめてほしい。ただ、海外だと以前にも書きましたが会社を数年で渡り歩くのが普通なので、そのとき自分がどれだけ賞を取っているかといったことが残念ながら判りやすいクリエーティブの評価基準になることもあり、みんな余計にアワードを取ることに躍起になっている感じがします。
さらにはアジアなどではそういうモノを作って賞を取らないと、なかなかクリエーティブとして評価されようがないといった悪循環が起きていることも判ります。そしてそして、さらに悲しいのは、そんなことをしてまでアジアの賞をいくら取っていても、欧米のエージェンシーではほとんど評価に入れてくれないという事実があります。「アドフェスって何?」と最近ネットワークの偉い人に言われてすごいショックを受けた記憶があります。悔しいので日本やアジアにきちんと西欧でも評価されるような、世界とつながっているアワードをなんとか作れないものかなぁとすごく思います。
川村真司「世界のクリエーティブ」バックナンバー
- 第8回 「とある一日。」(4/9)
- 第7回 「海外エージェンシーで働くのに必要なモノ」(2/19)
- 第6回 「コピーライター+アートディレクター+?」(1/29)
- 第5回 「広告制作に新しいプロセスを」(1/8)
- 第4回 「広告制作×個人制作」(12/25)
- 第3回 「シンプルに」(12/11)
- 第2回 「不可能なんて、なんてことない」(11/27)
- 第1回 「なんで日本の外へ?」(11/13)