「危機的事態」への意識、次第に希薄化
東北地方太平洋沖地震及びその後の津波で被災を受けた多くの方々の状況を考えると、心が張り裂けそうになるが、さらに続く原発問題、計画停電、余震、液状化現象など、現在も対応しなければならない課題は山積している。
さらに、日本に対する原発風評問題や夏以降の節電などで生産物のキャンセルが相次ぎ、外国からの観光客は大幅に減少、国際会議の開催場所も国外へ変更されるなど、その影響は日増しに大きくなっている。
一方で、政府等の行う記者会見に対する国民の反応は徐々に希薄化し、危機的事態そのものが平常時と同じくらい冷静に、いや無頓着になりつつあると感じるのは私だけであろうか。
先日、福島県に在住していた友人ご家族が避難所生活から脱して大阪へ移り住んだことを聞いた。そのために東京で働いていたお子さんも仕事を辞め、両親とともに大阪へ引っ越した。しかし、2週間後には、慣れない地方生活に精神的に疲弊し、再び故郷の土地の匂い、懐かしい環境に会いたくなり、福島に戻られた。お子さんは東京に再び戻ったが、同じ仕事につけず、今も職探しをしている。
今、「変化」への対応が求められている
最近では、危機的事態もその裾野は大きくなるばかりであるが、関心は空洞化しつつあるように感じる。PTSDで苦しんでいる人々、余震があるごとに眠れぬ夜を過ごしている人々、私の周りにもそうした苦しんでいる人々が多くいるが、そうした人々の声も聞こえなくなってきている。
日本はこれからも危機的事態を受入れながら、日本人という相互の心の絆を強固にして、強い精神を持っていかなければならないと思う。ただ流れに身を委ねるのではなく、ひとり一人が今後も続く課題や新たな危機に、挑戦し乗り越える強い気持ちを無くしてはならない。
再生にはまだ長く時間がかかることをしっかりと認識した上で、声なき声を集め、お互いに助けあう優しい気持ちを持ち続けることが復興の一番の早道である。
電車でご老人に席をゆずる若者を見た。新聞を広げて他の乗客に迷惑をかけるような人を見なくなった。目の悪い方を誘導してあげている高校生がいた。日本人の絆は、小さい積み重ねではあるが、徐々にその結びつきを確実な強さに変えつつある。
「変化」を受入れ、対応する力を身につければ、日本という国は再生ができる。重要なのは、今日からその行動をひとり一人が始めることだと思う。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第23回 「日本が変わるために、まずは原発被災者を救済することが先決」(4/21)
- 第22回 「『スパゲティウエスタン』化する原発問題」(4/14)
- 第21回 「『今そこにある危機』を再認識する」(4/6)
- 第20回 「Emergency Plan(緊急対応計画)を持たない日本の孤立化」(3/31)
- 第19回 「危機管理の原則はサバイバル 最終的には自身で判断を」(3/23)
- 第18回 「災害時の企業広報と経営トップの心構え」(3/14)
- 第17回 「米国で見た災害時の企業のCSR活動」(3/10)
- 第16回 「ニュージーランド地震に学ぶ」(3/3)