危機の現場で見え隠れする日本人の脆弱性

欧米では、実務家こそが専門分野で指導的役割を果たす

日本人経営者の多くは、リスク管理は会社の組織活動の一貫として個々のリスク所管部署が管理するもの、一方、危機管理は経営者によるトップダウンでの戦術活動・作戦行動(Maneuver)という別認識がなく、どちらも同じと誤解している。

日本の失敗事例の典型的事例は、事実確認 ⇒ 原因究明 ⇒ 責任表明 ⇒ 是正策の実施 ⇒ 再発防止策の実施 ⇒ 再発防止策の運用監査 ⇒ 安全宣言という危機対応の基本工程の中で、最初の「事実確認」が非常に甘く、「原因究明」が疎かになって、隠蔽の懸念が強まり、「責任表明」ができずに「経営者の退陣」という形で収束させようとする外部の圧力に屈することが多い。

日本の文化は「曖昧」を良しとする文化で、情報の抽出、解析、評価という技術がほとんど企業の中に定着していない。事実と称される情報にも「噂」「伝聞情報」「意見」「憶測」「裏付確認情報」など色々あることを前提としていない。特に、リスク情報の開示においては非常に曖昧で、将来へのビジョンや対応能力を疑う場面が多いのはこのためである。

模擬訓練による“Feasibility Study”(実効性の検証)がなされていないため、最悪の事態への対処(事業停止やevacuation plan<避難計画>)がない。さらに、実際に行動計画を机上で記載していても、誰がそのオペレーションを実施するかの組織担当者あるいは個人的担当者の指名がないため、そのスキルの実効性が確保されていない。

日本では、専門家は学者であるが、欧米では実務家である。リスク管理では予防策において識者の知識が必然であるが、想定外の危機では対処の実務家が経験則を活かして指導することが必然であると考えられている。

これらは全て「中庸を良しとし、過大に解釈しない」という日本人の悪癖が大きく影響している。このような企業文化の中にリスクを厳しく監視する職位である「CRO」(最高リスク管理責任者)の設置は期待できず、金融機関以外で採用している企業は極めて少ない。欧米主要企業ではCROはCEOとほぼ同じ程度の権限を有しており、CROの存在がない企業はリスクに対する対応が甘いと投資家から厳しい判断がなされる。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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