信頼は儀礼上のパフォーマンスではなく科学的データに基づけ
ところが、日本の風評対策はどうだろうか? 先週末、日中韓首脳会議が日本で行われた。これは政府の風評被害防止の戦略の一環であることは言うまでもない。被災現場を訪れ、福島産のトマトを首脳陣が食べる姿を報道させることにあった。
この現場での裏事情は、既に帯同していた中韓の随行筋から非公式に発表されており、外交的パフォーマンスとして何の事前の打合せもなく、「突然行われた度が過ぎた対応」として掲載されている。
日本では、よく首相や大臣が食品の安全性をアピールするために、自ら「踏み絵」のようにカメラの前で食べてみせる儀礼上のパフォーマンスを繰り返す。日本という狭い限定したエリアであれば、ある程度効果もあるかもしれないが、世界という大きな視野で見た場合、その光景は滑稽であるとしか映らない。
現実にそのトマトの試食パフォーマンスでは、韓国随行者が、イ・ミョンバク大統領が到着する間に必死にトマトの放射線量を調べていたというから、その意識の差は大きいものがある。
日本語・英語の情報提供だけでは不十分
「日本=怖い」というイメージが定着しつつある今、日本は雪印が行ったように、外交官が海外へ出向き、直接主要国に対して、安全性を立証しうる科学的なデータをもって説明を行ったり、経済産業省がセミナーや海外の商工会議所を通じて安全性をアピールするなど、各方面に向かって全力で動くことが重要である。
また、仮に中・韓の首脳が日本政府に好意的であっても、必ずしも各国民がそれに従順に従うわけではない。そうした意味では、SNSを利用した個人に対する情報提供や問い合わせ対応を、もっと積極的かつ戦略的に実施していく必要があると考えている。
現在、経済産業省のホームページにおける福島第一原子力発電所事故に関する情報は、日本語のほか、英語のみで開示されているが、もし今回の中・韓との風評被害抑止を真剣に考えるのであれば、それぞれの国民がその情報を直接入手できる当該ホームページにおいても中国語・韓国語での翻訳があってしかるべきである。
トマトの試食がまさにパフォーマンスと映ってしまった今回の政府戦略。しっかりとその意図、その後のフォローが戦術として落ちていないのが日本の対外戦略の大きな課題だ。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第26回「危機の現場で見え隠れする日本人の脆弱性」(5/19)
- 第25回 「脚光を浴びる『フォールトトレランス』と『レジリエンシー』という概念」(5/12)
- 第24回 「復興、再生の強い意思を胸に、日本人ひとり一人が行動を始めることが重要」(4/28)
- 第23回 「日本が変わるために、まずは原発被災者を救済することが先決」(4/21)
- 第22回 「『スパゲティウエスタン』化する原発問題」(4/14)
- 第21回 「『今そこにある危機』を再認識する」(4/6)
- 第20回 「Emergency Plan(緊急対応計画)を持たない日本の孤立化」(3/31)
- 第19回 「危機管理の原則はサバイバル 最終的には自身で判断を」(3/23)