ステークホルダーが企業の進むべき道を示す
※企業サイトを使ってステークホルダーとともに自社の価値、ストーリーを語るデル、フォードの事例など、詳細記事は『広報会議』9月号に掲載。
コミュニケーションはモノローグからダイアローグへ
「企業がメッセージを伝えるチャネルが1つ増えたということではない。むしろ、企業のコミュニケーション活動それ自体のあり方が変化してきたということです」。
『デジタル・リーダーシップ』の著者で企業のコミュニケーション戦略に詳しい米ダートマス大学のアルジェンティ教授は、ソーシャルメディア登場によるコミュニケーション環境の変化を、このように語る。ポイントは、企業のコミュニケーションが、モノローグ(独白)ではなくダイアローグ(対話)に移行してきているということだ。
これまで企業は、自社メディアを中心に、発信する情報をすべてコントロールし、管理することに重点を置いてきた。しかし、アルジェンティ教授によれば、グローバルな先進企業は、その企業に関心を持つステークホルダーを探し、ターゲット化し、支持基盤となるように働きかけている。
「ソーシャルメディアなどを通じて、顧客の声を入れて、新商品を開発したり、事業戦略を考えたり。ステークホルダーとともに、企業の新しい価値自体を創り始めています」。
例えば、ある企業の戦略立案に携わる人は、ツイッターで「次の25年でこの会社にどうなっていてほしいと思いますか?」と呼びかける。すると、ツイッターで様々な考え、アイデアがつぶやかれる。それぞれのアカウントを開けば、どんな人がどんな書き込みをしているか、ということまで分かる。
「以前は、自社の潜在的なステークホルダーは、人口統計学や心理学的なアプローチで推測するしか手立てがありませんでした。それを、ソーシャルメディアは顕在化させているのです」。
今、商品開発を担うのはR&D部門ではなく、戦略立案を担うのもコンサルタントではない。ソーシャルメディアをはじめとしたウェブで対話が可能な、世界中の何千万人ものステークホルダーが、自社が進むべき道を示してくれる存在なのだ。
ツイッターは個人メディア複数人で1アカウントはナンセンス
顧客を招き入れ、ともに情報を創り出していく活動をするためには、企業の発信姿勢もオープンになる必要がある、とアルジェンティ氏は語る。ソーシャルメディアを使った発信もその1つだ。
ツイッターは、「マイクロブログ」という言葉が示す通り、企業のCEO、CCO(コーポレートコミュニケーションオフィサー)など、アカウントを持つそれぞれがブロガーになると考えれば、多くの企業が恐れる炎上といった問題は起こらない。ブログに比べ、文字制限もあるため、書く内容に悩む時間も短くて済む。伝えたいことを直接、簡潔かつ迅速に伝えることができ、その上ステークホルダーからの素早い反応も得られるとても有効なツールだ。
「ツイッター自体が危険なのではありません。そのメディアに合わない使い方をすることが危機につながるのです」。例えば、日本企業では、1つのアカウントを複数の人が使うことがあるが、そもそも個人色の強いメディアなので「そのような使い方は、発信内容にブレを生じさせることになり、おすすめできません」。
またアルジェンティ氏は、動画チャンネルの可能性も指摘する。会社・商品紹介ビデオ、社長スピーチ、工場見学など、使える素材が多く、説得力もある。広報部が情報を届けたいメディア、顧客、社員などあらゆるステークホルダーに対して有効だからだ。
「You Tubeは、既にポータルサイト化して、一つの検索ツールになりつつあります。その検索結果で存在感を出すことが、今後はますます重要なのです」。そのためには、自社に関する情報が何かあったらいいなと願うのではなく、戦略的に話題になるコンテンツを提供する姿勢が欠かせない。
いま、関心を持たれるのはアイデアや技術開発
アルジェンティ氏は、日本企業がソーシャルメディアを使うか使わないか、決定しなければという議論をしていることに驚く。「ソーシャルメディアでは、既にあなたの会社や商品、サービスに関する対話が始まっているのです。それを、見えない、聞こえない、分からないというのは、その対話を無視しているようなものです」。
そのことは、つまり自分たちが伝えたい情報を伝える「push」戦略から抜け出せていない証拠。そういう企業では、ステークホルダーとともに、企業価値、発信すべき情報を創り上げる準備さえできていない。
「いま米国では、対話に参加する準備ができていることは最低限のラインであり、スタートラインです」。多くのグローバル企業にとっての現在の課題は、よりバーチャルな世界でどのように顧客と親密な関係を築くか。そのアイデア、実現する技術開発の競争についていくことにある。
ソーシャルメディアに関する見識は、今や全ビジネスパーソン、企業人が持つべきものだ、とアルジェンティ氏。それは例えば、パワーポイントの技術を自分の仕事にどう使うかを考えるのと同じことなのだ。
米ダートマス大学 タック・スクール・オブ・ビジネス教授
ポール・A・アルジェンティ氏
世界100を超えるグローバル企業や非営利団体にて、経営学、リーダーシップ、コーポレート・コミュニケーションのコンサルティングおよび研修に携わる。主な著書に『The Power of Corporate Communication』、『Digital Strategies for Powerful Corporate Communications』(英訳:デジタル・リーダーシップ ソーシャルメディア時代を生き残るコミュニケーション戦略)など。
「月刊広報会議」 2011年9月号
最前線レポート:『どこまでオープンにするか? 時代に適した企業サイトのつくり方』より