宣伝会議編集部では7月初旬、サンフランシスコでグーグル、ツイッターのほか、AKQAなど3社のクリエイティブエージェンシーを訪問。宣伝会議8月15日号では、18ページにわたり現地レポートを掲載しました。「AdverTimes.」では特別編として、AKQAのグループ・クリエイティブディレクターのピエール・リプトン氏へのインタビューをお届けします。AKQAの組織哲学、そして理想のクライアント像などに迫りました。
※本誌掲載のピエール氏のインタビューに、コメントを追加しました。
クライアントチームごとに、オフィスを構成する理由
――オフィスが職種ではなく、担当クライアントのチームごとにゾーンが区切られているのが印象的でした。
テクノロジーもクリエイティブも、あらゆる制作のインフラが各チームに揃っているのがAKQAの特徴。これは、他のデジタルエージェンシーに比べれば、特異なところかもしれません。他のエージェンシーだと、外部のテクノロジーベンダーに頼るケースがほとんどだと思いますが、AKQAでは多数の技術者が社内におり、すべての制作を自社内で行っています。これがAKQAの組織哲学だと言えるでしょう。
――具体的には、どのような職種で構成されているのでしょう。
アカウントサービス、クリエイティブ、ストラテジー、メディア、プロダクションのほか、バックエンドのインフラづくりを手掛けるテクノロジストがいる。テクノロジーはさらに細分化していて、Flashなどフロントエンドの技術とアートの知識を持ちあわせたCRD(creative research development)、デジタル上のユーザーの体験をデザインするUX(user experience)なども。このほか、品質管理やサポートの担当者がいます。
AKQA San Francisco 主な職種
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――クライアントごとに席を置くことで、得られる成果は。
有利な点としては、アイデアが生まれたばかりの段階で各職種のスタッフが関わることができることがあげられます。早期の段階で、立場が異なる彼らの視点を取り込めるのは大きい。コアとなるアイデアが固まってから外部のベンダーに持っていくというやり方では、試行錯誤するうちに元々そのアイデアが持っていたスピリット(精神)のようなものが失われてしまうことがあります。
アイデアの出発点は無限 ニーズを直感的に理解できるか
――UXという職種にもあるように、ユーザーの視点を早い段階で取り込めるというメリットもありますね。
UXは言い換えれば「インタラクションデザイン」「インフォメーション・アーキテクチャ」と呼んでもいいと思います。ユーザーがどのような過程でクリックするか、どんな経路であってもシンプルにたどり着けるか、論理的に設計していくわけです。UXの専門家は、どうデザインすればユーザーにとってメリットが生まれるのか、直感的に理解できるような人。ニーズがありながら、満たされていないギャップを埋めるプロとも言えます。
「アイデアはいかなる所に埋もれている」というのがAKQAのポリシー。だから例えば「UXの経験を持つ人が、クリエイティブディレクターになる」という選択肢も、ごく自然な流れとしてありうる。特にマーケティングよりもプロダクト・イノベーションに重点が置かれている現代では、消費者にとって真に意義のある商品やコミュニケーションを送り出す努力が必要です。エージェンシーが将来に向かって発展する上で、あらゆる経験を持つ人材は重要だと考えます。
クリエイティブのプロセスは始まる前に「合意」が必要
――AKQAはクライアントと長期的な関係を築いていて、新規のクライアントは年に数社のみと聞きました。理想のクライアント像はありますか。
さまざまなカルチャーの企業と仕事をしてきたが、新規のクライアントと仕事を始める際に必ず、「good clientになるための考え方」というのをお伝えすることがあります。たくさんの項目がありますが、その内の一部をお伝えしましょう。
まず、透明性を持ってオープンなビジネスを目指すこと。我々としては、かなり深いレベルで企業の課題を把握したいと考えているからです。二つ目はAKQAのストラテジストと一緒に、今回のプロジェクトにおいて達成したいことを短いセンテンスでまとめていきましょう、ということ。これは非常に重要で、クリエイティブのプロセスは始まる前に「合意」が必要だからです。1本のステートメントに沿って、同じ物差しで我々の仕事を判断してほしい。
何かソリューションを提示する前に、相互に根源にある問題を理解することが重要だと思います。だから、何事もオープンに正直な関係でありたいし、真実のみを語ってほしい。気を遣えば遣うほど、あらゆる課題は不明瞭になることもあります。
市場にない商品を生み出す イノベーションに興味がある
――最後にご自身が見据えている、AKQAの、そして広告コミュニケーションの未来について教えてください。
アウディのように、AKQAとしては「プロダクト・イノベーション」という方向を目指したい。究極的には、この先15年、20年の間には世の中のあらゆる情報やデータベース、統計はWEBに集約されていくことになるでしょう。それらをどのような形で、ユーザーへフィードバックしていく時代になるのか。これをいつも考えています。
例えば、自宅の冷蔵庫に牛乳がなくなったら?今まではその家の住人が気付くまで、牛乳は補充されなかった。でもゆくゆくは、冷蔵庫自体が牛乳の在庫をキャッチして、ユーザーに教えてくれるようになるだろう。そういうイノベーションに大変興味がある。市場にない商品を予期して、先取りして、開発していくことも我々の仕事だと考えています。
AKQAは2001年に設立。サンフランシスコ本社のほか、ロンドン、ニューヨーク、ワシントン、アムステルダム、ベルリン、上海などに拠点を置く。クリエイティブ部門のトップ、CCOは日本人のレイ・イナモト氏。主なクライアントにナイキ、アウディ、ハイネケン、VISAなど。サンフランシスコオフィスではXbox、GAPなどを手掛ける。