米国先進企業に学ぶ、透明性の時代におけるオープン・コミュニケーション

ドミノピザによる社員投稿動画によるブランド毀損、炎上とその対策

もうひとつの事例、それは2009年4月、オーストラリアのドミノピザ店舗内で業務時間中に悪ふざけしていた男性社員が、チーズやサラミなどのピザの材料を鼻に入れるなどして不衛生に扱い、それを女性社員が動画として撮影。動画サイト「ユーチューブ」に複数件の投稿をしたことが事の発端だ。

これらの動画は、ソーシャルメディアなどを通して一気に広まる。そして、おきまりのパターンだが、ニュース・メディアに飛び火し、結果として “Dominos” というキーワードでグーグル検索結果の1ページ目に登場することになる。多くの人々がこの世にも不愉快なイタズラを自らの目で直接体験したのだ。

当然だが、この動画は利用者の嫌悪感を大いにあおり、ユーチューブには「二度とドミノピザで頼まない」「これからは自分で料理を作る」といったコメントが多数寄せられた。何の前触れもなく、突如、ドミノピザに深刻なブランド崩壊の危機が訪れたのだ。

このケースでは、ペプシと異なり、ドミノピザの初動の遅さも拡散の大きな原因となっている。当初、彼らは、積極的な関与が逆に動画の広がりを助長してしまう恐れがあると判断し、すぐに反応しなかったのだ。ドミノピザが動いたのは動画公開から48時間後だ。トップ自らが動画でメッセージを伝えるとともに、ツイッターアカウント @dominosを事件直後に開局、そこで利用者と対話をはじめたのだ。

動画内でCEOのパトリック・ドイル氏は当件について謝罪するともに、(1)事件を起こした社員は解雇し、法的措置を検討していること、(2)対象店舗を一時閉鎖した上で衛生チェックや消毒を行ったことを説明。また、(3)今後このような人物が採用されることがないよう、採用基準についても見直すと延べている。

その後、事件から8カ月経った2009年12月、ドミノピザはホリデーシーズン直前に新キャンペーンを打ち出した。それは創立から50年守り続けてきたピザのレシピを、ソースや生地から作り変えるという大胆なものだった。

彼らは、再度CEOが登場する4分のドキュメンタリー動画を作成。いかにドミノピザが顧客からの批判的な意見も傾聴し、新しく生まれ変わったピザを作り出したかを語った。ドミノピザは、不衛生な動画に嫌悪感をもった「ユーチューブ」ユーザーに直接メッセージするために、炎上したユーチューブをあえて媒体として選択したわけだ。また新レシピ誕生にあたって、フランチャイズ店からサプライヤーにいたるまでいかに多くの人が参加し、「顧客に正直なキャンペーン」を心がけたかを伝える内容となっている。

Domino

同時期にオープンされたキャンペーンサイト「OH! Yes、 We Did」では、ツイッターやフェイスブックもフル活用し、ファンから数多くの写真や動画が投稿された。全てのコメントが前向きな内容とはいえないが、リニューアル後のピザを喜ぶ顧客の声が目立つ傾向が見られた。結果的に全米400以上の地元テレビ番組など多くのメディアに取り上げられる。そしてユーチューブ動画の再生回数は70万回近くになり、多くの顧客にリーチすることとなった。このキャンペーンでフェイスブックページのファンを8万人以上も増加させている。

ちなみにこのクロスメディア・キャンペーンに費やした期間は18カ月、かかった広告費用は750万ドルとのことだ。これ以降も、ドミノピザはユーチューブやフェイスブック、ツイッターを積極活用し、ソーシャルメディア先進企業となった。そして誠実でフレンドリーなブランドとして、そのイメージを改善することに成功した。

斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー

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斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)
斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)

1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM入社。2005年7月、ループス・コミュニケーションズを創業。現在、日本国内においてソーシャルメディアに関するコンサルティング事業を展開。業界を牽引するとともに、ビジネスへのインパクトを広く啓蒙している。
近著に「ソーシャルシフト~これからの企業にとって一番大切なこと」(日本経済新聞出版社、2011年11月発行)がある。

ループス・コミュニケーションズ: http://www.looops.net/
Twitter: http://twitter.com/toru_saito
facebook: http://facebook.com/toru.saito

斉藤 徹(ループス・コミュニケーションズ代表取締役)

1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM入社。2005年7月、ループス・コミュニケーションズを創業。現在、日本国内においてソーシャルメディアに関するコンサルティング事業を展開。業界を牽引するとともに、ビジネスへのインパクトを広く啓蒙している。
近著に「ソーシャルシフト~これからの企業にとって一番大切なこと」(日本経済新聞出版社、2011年11月発行)がある。

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