こんにゃくゼリーの形と硬さを政治主導で決定とネットの時流

すっかり秋めいてきましたが、ほぼ一年前にネットの一部でかなりウケたネタを紹介します。ネットでウケるには二つの重要な前提があります。一つであれば「それなり」にウケ、二つ揃えば「かなり」ウケます。

【1】ネタがおもしろい
【2】その時の「ネットで時流なネタ」であること

この両方の要件を満たしたのが2010年10月6日のこの記事です。
仙谷氏「こんにゃくゼリーの形と硬さ」を政治主導で決定へ-NEWSポストセブン

リツイート数は1645、「痛いニュース」「アルファルファモザイク」を含む2ちゃんねるの人気まとめサイトで紹介され、それらも数多くの拡散をしました。元々は週刊ポストによる、民主党政権の実態を明かす長い特集記事だったのですが、一部が切りだされ、この「こんにゃくゼリー」に関する短い内容となりました。記事を引用します。

尖閣諸島問題で窮地に立たされている仙谷由人官房長官だが、失地回復のつもりなのか、この重大局面に奇妙な“政治主導”を見せている。9月27日、政府は「こんにゃくゼリーの形と硬さ」の基準を政治主導で決める方針を打ち出したのである。

(中略)

菅政権の実態は、「外交は検察が決める。尻ぬぐいは小沢にやらせる。こんにゃくゼリーは俺たちが決める」という体たらくなのだ。

【1】については普天間問題や尖閣諸島問題の解決にしくじった民主党が、「こんにゃくゼリーの形と硬さを政治主導で決定」という「そんなのどーでもいいだろww」と思わせる点に突っ込みどころがあり、「こんにゃくゼリーは俺たちが決める」というオチがあまりにも滑稽なため多くのネットユーザーを笑わせました。

日本人はけっこう「弱者」に優しい

ここで重要なのはこんにゃくゼリーネタが【2】に相当していたことです。ネットを長時間見続けていると「こんにゃくゼリー」がネットで議論を呼ぶトピックであることが容易に理解できます。というのも、こんにゃくゼリーをのどに詰まらせ窒息死する高齢者や子供が時々出ると、それが大きく報じられ、規制されてきた歴史があるからです。そして、ここで重要なのが、多くの日本人は弱者に優しい「判官びいき」である点です。

こんにゃくゼリーによる死者が出るたび、ネット上では「モチも規制しろ」「ご飯も規制しろ」と、死者数がこんにゃくゼリーよりも圧倒的に多い食品への規制を呼び掛ける声が出ます。なかには、「餅は84倍危険」と指摘する記事もありました。

2008年にマンナンライフの「蒟蒻畑」を凍らせて食べた6歳児が窒息死した事故の後は、とかくネットでは嫌われがちな野田聖子消費者行政担当相(当時)が、同社に販売停止命令を下しました。しかしながら、同氏の地元である岐阜県のメーカーによるこんにゃくゼリーが大量にスーパーの棚に並んだ、というネットの書き込みも急速に広がり「えこひいき」だと非難されました。

マンナンライフが従業員数わずか88名の会社であることや、他の食品の方がよっぽど窒息事故死者を出していることなどから、こんにゃくゼリーについてはネットユーザーの「判官びいき」が発動されます。事故報道や規制に関する報道がされるたびに死者に対しては「自己責任だ!」の声があがり、規制をした政府に対しては「米の方が危険だ!」の声で大きく盛り上がるわけです。

ネタが弱くとも「時流」を押さえれば何とかなる…かも

この記事を掲載したNEWSポストセブンは雑誌記事の一部を切り出し、ネット用に編集しなおしているわけですが、こんにゃくゼリー関連の部分は雑誌内ではそれほど大きな扱いではありません。むしろ枝葉末節的な部分だったのですが、ネットではウケました。

この部分が選ばれたのは、「ネットではこんにゃくゼリー関連の話題だと盛り上がる」という「時流」があることが、瞬時に確認できていたからです。さらには、野田氏と同様に「なぜか嫌われる」存在である仙谷由人氏が「なぜか好かれる」存在であるこんにゃくゼリーの規制を主導したことで、「コンボ」が発動され、あれだけ盛り上がったのでした。

「このネタ弱いんだよなぁ…」と嘆いている方でも、「時流」に乗っていれば、けっこうウケることはありますよ。たとえば…こんなものはいかがでしょうか。企業のネタと合致するかどうかは微妙ですが。

  • 地デジ化しなくてもなんとかなっている人
  • 若者の○○離れ
  • 高齢者の○○離れ
  • あまりに恋愛に積極的な40代独身女性
  • あまりに高い食べもの・あまりに安い食べ物
  • 学歴に関して何か
  • 著作権問題
  • 牛丼の値下げ戦争
  • ネット上の実名・匿名の意義
  • 韓国でシェアを上げている日本企業
  • 女性よりも男性を優遇する店

理由については「私の勘」としか言いようがありませんので、理由についてはすいません、勘弁してください!

中川淳一郎「ネットで人気ものになるネタの生まれ方!」バックナンバー

中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)
中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)

1997年博報堂に入社。コーポレートコミュニケーション局に配属となり、企業のPR業務を担当。2001年に退社し、『日経エンタテインメント!』のライターとして活動後、「テレビブロス」編集者になる。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などをしながら、2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者になる。現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するプランニング業務も行っている。宣伝会議「Web&ソーシャルライティング実践講座」「戦略PR講座」講師。肉巻きアスパラ大好き。

Blog: http://blog.goo.ne.jp/konotawake
Twitter: http://twitter.com/unkotaberuno

中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)

1997年博報堂に入社。コーポレートコミュニケーション局に配属となり、企業のPR業務を担当。2001年に退社し、『日経エンタテインメント!』のライターとして活動後、「テレビブロス」編集者になる。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などをしながら、2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者になる。現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するプランニング業務も行っている。宣伝会議「Web&ソーシャルライティング実践講座」「戦略PR講座」講師。肉巻きアスパラ大好き。

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