ソーシャルメディアの危機管理対策は積極性、スピード、誠実さ
ソーシャルメディアがまだないころ、企業内で不祥事が発生し適時開示後、株価が低迷した上場企業のIR担当役員から支援要請があった。ホームページのIRページのお問い合わせ欄をチャット化し「見える化」の試みをしたいとのことだった。一日に千件を超える問い合わせに一つ一つ誠意をもって文書で回答し、その流れがアクセスしている全ての人に同時に見えている様は、まさに現代のソーシャルメディアのトライアルと言っても過言ではない。最初の数日はそれこそあらゆる汗をかいて大変な業務となったが、その後、同一の問い合わせが激減し、企業側の誠意がダイレクトに伝わる実感を共有できたことは今でも覚えている。
現代のソーシャルメディアは、その機能を考慮すれば、さらに進化し、方法を間違えれば相手を容易に敵対する意見者に早変わりさせる可能性を秘めている。まさにPublic Toolであるだけに、悪意を持つ者からすれば利用しやすい道具となる。しかも不祥事対応の中でソーシャルメディアを使うということになれば、企業にとってフェイスブックのファンやツイッターのフォロワーは、ほぼ「否定的な意見者」と考えてよいだろう。そこで、企業広報の責務は、彼らの意見を封じ込めることではなく話を聞き敬意を表し、ネガティブな考えからポジティブな考えにシフトさせることにある。説得しようとするのではなく、最善を尽くして理解して頂くことに注力することが重要となる。
BP社の偽広報事件の例ではないが、法人としてのオフィシャルアカウントを持っていることが知られている企業では、もたもたしているうちに「なりすまし」に先を越され思わぬ風評となる事態も発生する。やるのであれば、対応は即日実施が望ましい。
また、ソーシャルメディアでの問い合わせ者の中には不特定多数のネット上での意見交換を嫌う事例も多く、問い合わせ者の実情に合わせて電子メールや電話での対応に切り替えられる柔軟さやフォローも必要となる。
一方、ツイッターで顧客向け広報用アカウントを取得している事例では、顧客から企業アカウントにフォローを受けたあとの企業側からのフォローが重要だけでなく、この際、秘匿性の薄いツイッターでのメッセージを使用せず電子メールなどで直接やり取りできる方法を検討しておく注意深さも必要だ。各SNSの機能を熟知した上で、慎重さと大胆さを十分に発揮させることが、不祥事後のソーシャルメディア使用における危機管理対策の糸口となるはずだ。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第45回 牙をむく「アノニマス」 次のターゲットはシリア政権(9/29)
- 第44回 ハッカー集団による標的型メール攻撃で機密情報が狙い撃ちにされる(9/22)
- 第43回 ツイッターの内容に機敏に反応した「日本新薬」の評価の分かれ目(9/15)
- 第42回 世界レベルの巨大リスクを認識し対処する能力を日本も持つ時期が到来(9/8)
- 第41回 東京ゲリラ豪雨やNYを直撃したハリケーン「アイリーン」でも大活躍したツイッターの情報共有能力(9/1)
- 第40回 ハッカー集団「アノニマス」の正体とフェイスブック攻撃の本気度(8/25)
- 第39回 ハッカー集団がフェイスブックに宣戦布告!ハッカーvs米国との仮想対戦が現実となる(8/18)
- 第38回 3.11後に変化した日本人のリスク意識とは(8/11)