文:AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサー レイ・イナモト
第1章 「Japan’s Edge – 日本の強み」
世界を舞台に活躍するレイ・イナモトさんが考える日本の強さとは。日本のコミュニケーションビジネスの今、そしてこれからを考える全4回の短期連載。(この原稿は宣伝会議10月15日号に掲載をされたものです。レイ・イナモトさんの連載は、「宣伝会議」15日発売号に全4回シリーズで掲載の予定です)
少し前、Twitterでこのような呟きを見た。クレイトン・クリスチャンソン 曰く、日本に未来はない。韓国、台湾、シンガポールが未来を握っている。
─“No hope for Japan says Clayton Christiansen at WIFNY. Korea,Taiwan and Singapore own the future.” @tmontague
今年、日本では「3・11」という余りにも悲しすぎる出来事が起きた。日本の未来を大きく揺り動かすことになった人類にとって最大級の災害である。そんな日本に対してこの様な発言は、日本人の僕にとっては非常に腹立たしくなるものだった。
そして僕は公の場でこう言い返した。「その言葉に多少の真実性があったとしても、今まさに悲惨な状況に陥っている国に対して、公の場でそうした発言をするのは良くない」と。それに対して「あなたの言うことも一理ある」、とそれを呟いた本人は返事をくれた。
その@tmontague という人、実はあの大手広告代理店JWT(旧J. Walter Thompson)で昨年までチーフ・クリエイティブ・オフィサーをしていたタイ・モンタギュー(Ty Montague)という、とてつもないお偉い方である。
その彼が所属していたJWTは、1864年にアメリカで設立された世界で初めての現代の広告代理店。1899年には世界初の国際部をロンドンに出し、1930年に世界で初めてテレビコマーシャルを作ったり、いくつもの「世界初」記録を持つ大した会社だ。そしてこの代理店にひとつ面白い逸話がある。
1930年、クラフトフーズ(KraftFoods)が同社のクライアントのひとつだった。そのクライアントから「チーズの販売促進のための宣伝」をして欲しいとの依頼が来た。印刷媒体がマスメディアの主役だった当時、 提案は紙媒体での広告企画が当たり前だっただろうし、またそれがクライアントから期待されていたことであったろう。
ところが出された案は「広告」ではなく、チーズをはさんで焼いたサンドイッチ、「グリルチーズサンド(grilled cheese sandwich)」のレシピだったのだ。つまりチーズをメインに使った料理を消費者が好んで食べるようになればチーズの販売促進につながるという考えだったわけだ。アメリカの食卓で当たり前の様に定着した「グリルチーズサンド」という「プロダクト」、実はJWTという広告代理店が発明した物だったのだ。
(次ページに続く)
「商品を売りたい」「ブランド力を高めたい」「会社を成長させたい」と考える方々へ広告・マーケティング・販促・広報などコミュニケーションの力で成功を勝ち取るための最新の事例とノウハウをお届けする、マーケティングの専門誌です。今注目を集めている成功事例の裏側をいち早くご紹介します。