前回どうすれば、企業を変革することができるのか、それもボトムアップ、現場主導でソーシャルシフトするためには、どのような方法が可能であるかを6つのステップを紹介した。今回以降のコラムではそれらのステップの詳細を紹介しようと思う。
有志で社内勉強会を組織化、スタートアップする
最初にすべきは、プロジェクトのコアをカタチづくること。コアと表現しているのは、中核組織の形成と経営層の理解を指している。
まず第一ステップは、社内有志で「勉強会チーム」を組織化することからはじめたい。顧客接点の中心となる広報宣伝、マーケティング、営業・店舗、顧客サービス、Web担当、商品企画などの部門を中心に、ソーシャルシフトの必要性を強く感じているメンバーを集う。リアルな勉強会とソーシャルメディア上、オフラインとオンラインの対話によって、継続的に情報共有や意見交流を重ねる。企業として、ブランドとしてあるべき姿を考え、顧客接点において改善すべき点を洗い出し、自社のソーシャルシフト計画を練り上げるのだ。
もう一つ重要なことは、勉強会チームで自社ブランドおよび商品ブランドに対するネット上の評判をモニターし、分析しはじめることだ。実際にソーシャルメディアで自社や競合がどのように語られているかを自分たちの目で確認すること、そしてそれに基づき問題意識を共有することは何よりの推進力となるはずだ。この段階では予算がついていないので、無料ないし低料金のツールを利用し、勉強会全員で分析するのが良いだろう。全体を俯瞰した分析数値やグラフなどもあった方がベターだが、賞賛や非難もあわせた「生々しい生活者の声そのもの」がトップの心を貫くケースが多いので、加工のしすぎには注意したい。
(各種ツール例)
Twitter系のみを対象とする場合(多くが無償)
- Topsy 〜 Tweet検索エンジン
- Hootsuite 〜 ソーシャルメディアクライアントでキーワード収集可
- Twitraq 〜 Twitterアクセス解析
ブログやクチコミサイト、掲示板も対象とする場合(多くが有償)
- クチコミ係長 〜 ブログ分析、クチコミ分析ツール
- 感度レポート 〜 ソーシャルメディア分析サービス
- 見える化エンジン 〜 テキストマイニングツール
- カスタマーリングス 〜 トータルCRMツールなど
社内勉強会で一定の方向性がみえたタイミングで、トップ・プレゼンテーションの機会を模索する。その目的は二つだ。ひとつは「透明性の時代」を認識してもらうことだ。外部環境が大きく変わり、それにあわせて自社も大胆に変革する必要があることを理解してもらう。外部講師による客観的な講演も効果的だろう。
もうひとつは勉強会チームによる「ソーシャルシフト試案」に支持をいただくことだ。経営層の支持がないと本格的なソーシャルシフトは困難だ。実際にソーシャルメディアやブログ上で自社についてどんなことが語られているのかを適時閲覧してもらうこと、また尽きない不安に対して懇切丁寧に回答し続けること。現場の弛まぬ熱意が、やがてトップを動かすはずだ。
経営トップの支持を得られたら、勉強会を発展させ「ソーシャルシフト準備室」開設の承認を得る。この準備室は、プロジェクトチームを正式に発足させるための過渡的な組織であり、主たる目的は、「ソーシャルシフト・プロジェクト」発起のための社内承認を得ることだ。典型的な企画書のストーリーをあげておきたい。
- プロジェクトの目的
- 予備調査 (ネット上の自社および他社評判の調査)
- 自社ブランドにおける顧客接点の洗い出し
- 自社「コーポレートプランド」「商品ブランド」に関するブランディングの現状確認
- 現状の課題点を抽出(あるべき姿と顧客体験のギャップを中心に)
- 課題に対する打ち手の検討
- ソーシャルシフト・プロジェクトの全体構想
- 概算予算、想定する体制と会議体、スケジュール
準備室でこのような企画書を創り上げ、社内稟議プロセスにかける。本社各部門においては、さまざまな抵抗や質問攻めが想定されるが、この稟議プロセスで丁寧に承認を得てゆくことが、その後のプロジェクト運営に大きく影響する。会社を進化させる使命感を共有し、メンバーが力をあわせてこの困難を乗り越えたい。
ソーシャルシフトのためのプロジェクトチームを組織化する
社内稟議を得た上で、本格的なソーシャルシフト推進プロジェクト(以下「ソーシャルシフト推進室」と省略)を組織化する。ここでは変革の必要性を痛感している経営幹部を責任者として位置づけてもらうのがベストだ。これ以降も経営陣には適時プロジェクトの進捗や顧客の生の声をレポートし、相互の信頼関係を維持していくことが大切だからだ。また、ソーシャルメディアは実際に体験しないと決して理解できないものだ。できればこの機会に、経営幹部にもソーシャルメディア利用を促進しておきたい。
続いてソーシャルシフト推進室のメンバーを組織化する。この組織がリードして、
- ブランド哲学(ミッション、ビジョン、コアバリュー)とオープンリーダーシップ(新しいリーダーシップ・スタイル)の明文化
- 顧客接点の調査と改善
- ソーシャルメディア活用の推進
- 顧客の声を傾聴する仕組みの構築
- 社員の幸せと顧客の感動を核とした社内文化の醸成
を行うことになる。
社内変革の推進者として極めて重要な役割を果たすため、慎重な人選が必要だ。プロジェクト成功の可否はこの人選にかかっていると言ってもよい。当初は兼任となるケースがほとんどだろうが、ソーシャルシフトは企業の命運をかけたプロジェクトと言っても過言ではない。次のような理想的布陣を敷くことをおすすめしたい。
マーケティング部門(ブランド企画能力、リサーチ能力)、CSないし営業部門(顧客接点の現状理解)、商品企画(商品企画プロセスと製品知識)、Web担当(現行Webとソーシャルメディア活用知識)、各1人をソーシャルシフト推進室の専任メンバーとする。それぞれが各部門における専門性を持ち、その上で顧客ロイヤリティに強い情熱を持つ正社員が望ましい。知識や能力不足の場合には外部コンサルタントなどで補う。グループの最終責任者としては、前述した経営幹部に就任していただくことが望ましい。もしCMO(Chief Marketing Officer)ポジションの役員がいれば最適任だ。責任者は経営幹部とするも、実質的なチームのボスは「生活者」であることをチームメンバーで認識共有すべきだろう。
さらに、ソーシャルシフト推進室を多面的に支援する会議体「お客様の声委員会」を設置する。この委員会には、すべての顧客接点に所属する社員の参画が望ましい。この「お客様の声委員会」こそ「ブランドの哲学(ミッション、ビジョン、コアバリュー)」「リーダーシップ・スタイル」「ソーシャルメディア・ポリシー」などの策定をソーシャルシフト推進室と一体になって推進し、顧客の声に基づくフィードバック・ループを継続的に運用していく中核的な会議体となる。
また可能であれば、外部有識者で構成する「ブランド審議会」を監査機関として組織化したい。この審議会はブランドに精通する一流の社外メンバーで構成し、プロフェッショナルの視点からブランド価値の継続的向上を図る組織として位置づける。ブランド審議会を発起できる場合にはブランド哲学の策定にも関与していただくべきだろう。
※今回のコラム詳細はループスのメディアであるin the looopにも掲載しています。
斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー
- 第7回 企業をソーシャルシフトする6つのステップ(10/31)
- 第6回 ソーシャルメディアは、生活者、社員、経営者を結ぶ情報パイプライン(10/24)
- 第5回 大企業におけるオープン・リーダーシップ(10/17)
- 第4回 企業の哲学が問われる時代 (10/11)
- 第3回 透明性の時代。企業と生活者、新しいコミュニケーションのカタチ (10/3)
- 第2回 米国先進企業に学ぶ、透明性の時代におけるオープン・コミュニケーション (9/26)
- 第1回 テレビより前にソーシャルメディアが報じていた、九電やらせメール事件 (9/12)