『ブレーン』では佐藤可士和さんが美大生からの質問に答える連載コーナー「美大生からトップクリエイターへの質問」を掲載しています。アドタイでは今後、隔週でこの連載を転載していく予定です。誌面とあわせてお楽しみください。
※本記事は、『ブレーン』2011年8月号(連載第1回目)掲載分です。
連載「佐藤可士和さんに質問」はこちら
(女子美術大学 デザイン学科3年 室谷かおり)
A. 本気で取り組めばあらゆることから学べる
バンド活動から得た気づき
学生のうちは、興味の対象を限定せずに、できるだけいろいろなことに目を向けたほうがいいと思います。なぜなら、思わぬ分野同士が結びついて、学びや気づきを与えてくれることがあるからです。
とはいえ当時の僕は、「とにかく自分はすごいクリエイターになるのだから、アートやデザインにだけ興味があればいい」と思っている学生でした(笑)。ただし、音楽活動だけは熱心に取り組んでいた。大学1年のころから自分のバンドをプロデュースし、作詞、作曲、演奏、ライブの企画にデモテープも作成していました。一見デザインと関係ないこの経験が、実はいまの仕事のベースに直結しています。
鮮烈な経験は大学2年生のある日、唐突に訪れました。夜中に下宿でひとり作曲をしているときに突然、「絵も音楽も一緒だ!」と気づいたんです。それまで全く別物だと思っていたけれど、音楽はキャンバスが時間になるだけで、あとは同じようにコンセプトがあり、構成があり、山場があり、絵を描くのと同じように作れるんだと、リアルに実感できた。
その途端、バーッと未来が広けた感覚がありました。クリエイティブに境界なんてないんだとわかって、気持ちがすごく自由になったのを覚えています。僕が立体デザインやインスタレーションも手がけるようになったのはそれからです。
自らのお金と時間を投資しないと学べない
音楽活動を通して学んだことは、チーム運営やイベントの企画ノウハウといった面でも、社会人になってから広告の仕事をする上で大いに役に立ちました。その経験があるから、僕は今でも、仕事もプライベートも分けずに何でも真剣に向き合うようにしています。何かに真剣に取り組むと、やがてこうした気づき瞬間が訪れるんです。
重要なのは、これと決めたことには、自分の時間やお金を惜しまず投資することです。例えば僕が学生のときには、作曲の参考にするためにレコードを何日も探しまわり、バイト代をつぎ込んだ。何万円もする録音機材をローンで購入したこともあります。
投資は、覚悟と決断です。投資額が大きいほど真剣に考えるし、決断力が養われる。自分にとって本当に大切な判断基準を知る機会にもなります。学生時代のそうした経験は、あとでいくらお金を出しても手に入りません。
ただし、あれこれ手を出すと、自分の軸がブレるので注意した方がいい。あくまでクリエイティブを軸にしながら、少しずつ周りを増やしていくこと。
学生時代は、自分だけのクリエイティションに集中して向き合える、二度と戻らない貴重な時間。僕も、学校の課題をすべてこなし、それとは別に自主制作も作り、個展も開いた上で、寝る間を惜しんでギターを弾いていました。
すべての物事は必ず世界に結びついている
語学や経済の知識は、ないよりはあったほうがいい。けれど、世の中的にこういう知識が必要とされているからと、わざわざ勉強するよりも、素直に自分が関心を持っていることを入り口にすればいいんです。
行ってみたい国の言語を覚えるのでもいいし、ITに興味があれば、おのずと経済・ビジネスの知識に結びついていくはず。キャラクターデザインは、著作権のような法の世界にも通じています。
すべての物事は、必ず領域に結びついています。周りの誰かの意見を気にして勉強するのではなく、常にあらゆることから学ぶ姿勢で臨んでください。
※明日(12月1日)発売の『ブレーン』1月号では、連載第6回目(Q.今後より作家性の強い作品にも取り組まれるのですか?)を掲載します。ご期待ください。また、編集部では佐藤可士和さんへの質問を随時募集しています。ご質問のある学生の方は、brain@sendenkaigi.co.jp まで[質問、お名前、学校名、学部名、学年]を書いてお送りください。お待ちしています。
(プロフィール)
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター。1965年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経てサムライ設立。主な仕事にユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクションなど。
人気アートディレクターである著者が、学生との一問一答を通じて、やさしく、わかりやすく、ズバッと答えます。月刊「ブレーン」での好評連載にオリジナルコンテンツを加えて書籍化。
定価:¥ 1,050 発売日:2012/12/25