「ソーシャル」を取り込んだ近年のメディア環境の変化や技術進歩を踏まえ、これからのWebサービスをどう設計していくべきか――。広告会社発のメディア事業としてサービスを開始した「キタコレ!」をめぐって、同事業を運営する小林パウロ篤史さん、糸永洋三さんが、博報堂時代の先輩でもある高広伯彦さんからアドバイスを受ける形で始まった今回の鼎談。話題はメディアやテクノロジーの役割から、広告会社のビジネスやキャリアにまで及びました。5回にわたってお届けします。
――「キタコレ!」は、博報堂DYグループの新規ビジネスアイデア公募制度から生まれた社内ベンチャー「MediaJUMP(メディアジャンプ)」によって今年の8月に立ち上がったWebサービスです。MediaJUMPの代表には、このビジネスアイデアを提案した小林パウロ篤史さん、糸永洋三さんが共同で務めています。
まずはお二人に、今の立場に就いた実感からお伺いします。代表としての仕事や心持ちはこれまでとは違いますか。
経営者は「ノーストレス・ハイプレッシャー」
小林 社内ベンチャーながら、会社の代表として最終決裁権を与えてもらっていますので、これまでとは全く違います。MediaJUMPの株主は博報堂DYホールディングス(※正式には出資目的子会社AD plus VENTURE株式会社)とゼンリンデータコムの2社で、これまでのような「上司」とは違う存在です。
糸永 お金と判断を自分たちで決められるのはとても大きいですね。まだひよっ子ですが、その立場はとてもありがたいと思っています。「ノーストレス・ハイプレッシャー」になったと表現しています。基本は自分で決めるわけですが、ストレスはありません。
小林 事業を成功させなければならないというプレッシャーは確かに厳しいですが、精神的には健全ですね。逆に、もとの世界に帰れと言われたら、帰れなかったりして(笑)
高広 そもそも、この事業を立ち上げようとしたのはなぜ?
小林 広告会社の今後を見据えた新しいビジネス領域として、フィーで稼ぐなどメディアバイイング以外のビジネスを手がけたいと以前から考えていたことが発端です。
糸永 それは、インターネットの世界ではバイイングはいずれ自動化される、もしくは総合広告会社が手がける領域でなくなるかもしれない、という前提がありました。
220件から選ばれた4件
高広伯彦
コミュニケーションプランナー/広告ビジネスコンサルタント。
1996年博報堂入社。その後、博報堂DYメディアパートナーズ、
電通で主にインタラクティブ・マーケティング領域のビジネス開発
や広告主のキャンペーンに携わる。2005年にグーグル日本法人
に入社し、新しい広告のインフラづくりに取り組む。2009年1月に
独立し、「スケダチ 高広伯彦事務所」として活動。広告主の
プランニングやビジネス開発を支援する。
(左)小林パウロ篤史
MediaJUMP代表取締役共同経営責任者。1998年総合商社
に入社。中南米、アフリカへの自動車輸出業務に携わる。
初出張はスーダン。その後、博報堂、博報堂DYメディアパート
ナーズにて広告の最前線を経験。「ミクシィ年賀状」などで
受賞歴あり。2011年4月から現職。
(右)糸永洋三
MediaJUMP代表取締役共同経営責任者。2000年博報堂入社。
大手自動車会社などを担当。その後、博報堂、博報堂DYメディア
パートナーズで、インターネット領域のメディアプロデュース業務を
担当。2011年4月から現職。
糸永 僕は2000年に大学を卒業して博報堂に入りました。本当に入りたくて入った会社です。入社当初はテレビスポットが好調で、それは全社の業績好調を意味しました。ところが2002年、2003年ごろから、広告業界全体も苦戦していましたし、会社も絶好調というわけではなくなってきた。周囲から愚痴を聞くことも増えてきました。僕は好きで入った会社でそんな声が聞かれるのが我慢できなくて、「不満ばかりこぼしてないで自分たちにできることをやっていこうよ」という気持ちを若いながら持っていました。
そんなときに、社内のFA制度を使って営業から博報堂DYメディアパートナーズのi-メディア局に異動しました。周囲の期待も資金も集まっているインターネットメディアにかかわることで、何か新しい突破口を見つけたいと思っていました。ちょうど僕が行ったころ、高広さんは辞めてしまいましたが。
高広 そうだったね(笑)。
糸永 そこでパウロさんという先輩に会って。きわめて変わった人ですけど、求められる役割に対してアウトプットを出していくことに対して、共鳴しながらやっていくことができました。そんな中で、グループ社員から新規事業のビジネスアイデアを募る「AD+VENTURE(アドベンチャー)」制度というのが発表された。新人から部長、局長まで応募していいという、誰もがフラットに応募できる環境が与えられました。このことにはとても感謝しています。
小林 アドベンチャーで応募があったのは220件くらいあって、選ばれた4件のうちのひとつです。僕らが決めているのは、「親会社のシナジーになることをやろう」を社内ベンチャーのポリシーにしよう、ということです。
高広 今の話に関連して言うと、まったく別の次元の話で、博報堂とか電通の規模でインターネットのビジネスは儲かるのか、という議論があるよね。
糸永 根本の課題ですよね。
高広 例えば、(米広告大手の)DDBは、2001年ごろの早い段階でTribal(トライバル)DDBというインタラクティブ部門を分離独立した新会社をつくった。トライブ(tribe = 種族・共通の趣味や属性を持った仲間)というのがそのキーワード。マスの市場と向き合うDDBに対して、インタラクティブに対応する広告会社というコンセプトでつくった。そのトライバルDDBはインタラクティブとデジタルとデザインのチーム。メディアバイイングはまた別。そこで勝負していくと決めた。
インターネットの世界では、自分たちで事業を立ち上げるのか、もしくはオンラインメディアビジネスをやるのか、インターネットビジネスのコンサルティングをやるのか。あるいはそれに対するクリエイティブをやるのかなど、いくつかのセクションがあるはずなのに、それをひとつの「インターネットビジネス」としたときに、本来見えるべきものが全然見えてこなくなる。
(次回は12月5日に掲載します)
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「宣伝会議」12月1日発売号にも鼎談の一部を掲載しています。こちらもご覧ください。
「キタコレ!」とは
URL:http://www.kita-colle.com/
「あした、何しよう?」をコンセプトに、個人の興味・関心や生活圏に合わせたイベントを上位表示するWebサービス。独自のアルゴリズムによるレコメンド(推奨)エンジンを開発し、ユーザーの登録情報やサイト上での行動履歴を基に、関心の高いと思われるイベントを提案するもの。博報堂DYグループの新規ビジネスアイデア公募制度から生まれた社内ベンチャー「MediaJUMP(メディアジャンプ)」が立ち上げた。