こんにちは。片岡英彦です。第3回目は戦略広報上の「可視化」というテーマについて考えてみたいと思います。戦略広報上、「可視化」が重要な理由は3つあります。
可視化が重要な3つの理由
- メディアに大きく扱ってもらえる
- キーメッセージをシンプルに伝えられる
- 最終的に持っていきたい方向に落とし込みやすい
世界の医療団ではホームレスの医療支援のため路上などで
生活するホームレスの方々と地道なコミュニケーションを
継続しています。
私は現在、個人事務所でのマーケティング支援活動と並行して、国際NGO「世界の医療団」で広報の仕事をしています。同団体の活動の1つにホームレスの方々の長期医療支援(特にメンタルケア)があります。この活動の広報戦略を考える上で最も苦心するのが「可視化」です。なぜ「可視化」が難しいのか?
- ホームレスの方の多くはメディアへの露出に積極的ではありません。
- 長期医療やメンタルケアは「絵」(映像等)にすることが難しいテーマです。
- 特定の方の相談内容を公開することで可視化を図ることも基本はできません。
2008年の年末に東京・千代田区の日比谷公園内で「年越し派遣村」が開設され大きな話題となりました。この活動をリードしたのは、現在、内閣府参与として、雇用対策、貧困・困窮者支援対策を行っている、湯浅誠さんです。
ここで「可視化」の視点を、当時の派遣村の活動に当てはめて考えてみます。
メディアに大きく扱ってもらえる
期間中に派遣村を訪れた失業者はおよそ500人、参加ボランティアは1680人。報道機関は空撮のヘリまで出動させ、麻生元首相宅との炊き出しに並ぶホームレスたちの映像を比較するなどの「可視化」を行い報道しました。
キーメッセージをシンプルに伝えられる
製造業を中心に、当時は「派遣切り」という言葉が世間に広がっていました。実際に「派遣切り」にあった派遣労働者と、「派遣村」に集まった人々とは必ずしも一致しないとの意見もありましたが、「派遣切り」=「非人間的」というキーメッセージがシンプルに「可視化」され広がりました。
最終的に持っていきたい方向に落とし込める
政府、与党、野党のみならず、マスコミ、芸能界でも、賛成・反対に意見が割れました。しかし、一度「可視化」されたメッセージは終息されるまで報道され続けます。戦略広報の目的が「相手の自発的行動を引き起こす」という点にあるならば、誰かがこの「可視化」された状態を終息させない限り、報道は収まりません。これにより派遣村の活動者たちは、政府を動かす「カード」を得ました。
田村隆一『ある種の瞳孔』より。
眼に見えないものを見る
あれは撃鉄をひいたことのない
群小詩人の戯言だ
眼に見えないものは
存在しないのだ
問題を「可視化」させることでメディア露出を図り、シンプルなメッセージが、結果として世論と行政を動かしたのです。
来週は「再現性」という視点で、芸能界のご意見番、歌手の和田アキ子さんについて考察します。
それではみなさま。また来週。