英語ができなくてもいい、たくましく育ってほしい。

帰国子女にあこがれて。

クリスマスツリー

ニューヨーク名物、Rockefeller Centerのクリスマスツリーが今年も点灯しました。自分も今年は生のモミの木を買ってみようかな。

ことしのニューヨークの12月は、暖かい日と寒い日が交互にやってきて、ちょっと不思議な気候です。日本はどうでしょうか。僕のアパートの裏庭には大きなニセアカシアの木があるのですが、もうきれいな紅葉もすっかり終わり、黄色い小粒の葉も落ちて、最後の葉っぱが散ったら僕はどうなるのかしら…、などとセンチメンタルに毎日眺めていたら、先日いきなり、木まるごとチェーンソーで切り倒されました。まじかー!アメリカ人!自然を大切に!

と、たあいもない天気と木の話から始めているのは、今回はちょっとその、なかなか書きづらいテーマなわけで…。でも、いつかはこの話をしなければなりません。英語の話です。実は僕、英語が苦手なんです。

僕が在籍しているこのオフィスには、日系広告代理店の支社とはいえほとんど日本人はおらず、とくにクリエイティブ部門には僕とパートナーのヨースケ先輩の2人だけ。当然のことながら仕事は英語で進みます。しかしこれが、ほんとに苦労の連続。英語ができる人にあこがれます。アメリカで働くんです、という話をすると、よく、帰国子女なんですか?とか、留学してたんですか?とか聞かれるわけですが、僕はチャキチャキの国産品。英語は中学と高校の授業でやっただけ、大学では寝てただけ。会社に入ってから海外研修に出してもらったことがあるのですが、その研修準備で3カ月間、マンツーマンの英会話をやった程度。その英会話レッスンもほとんど毎回、先生のノートPCの調子が悪いのを直してあげてた感じで、どっちが何のレッスンを受けてるのやら。海外研修はニューヨークの小さなクリエイティブ・ブティックの現場だったのですが、おかげで「英語のようなもの」を話す度胸だけはついたものの、英文法や語彙なんかは、今でも自信がないのです。

こんな僕でも、またアメリカに出してもらえたこと、本社の方々にはとても感謝しています。今までは「英語ができる人」しか、海外で働くチャンスがなかった。でも、「日本のデジタルやクリエイティブを欧米のクライアントにぶつけてこいっ!」と、僕らみたいな現場の人間を外に出してくれるのは、ほんとにありがたいことです。だから、なんとか少しでも成果をあげて、英語が苦手でもヤル気にあふれる後輩たちを、もっともっと呼び寄せたいなあと思っているわけです。英語ができなくてもいい。カモン!です。

佐々木式英会話。

というわけで、僕にとって、打ち合わせは戦いです。自分のアイデアを通す以前に、会話自体に入っていかなきゃいけない。とくにニューヨークの人はしゃべりが速くて大変です。英語が苦手でもアメリカで働くには?ここで得た僕の英会話ノウハウを、以下に惜しげもなく公開しましょう。といっても、たぶん全く役に立たないですけど…。

まずはじめに、相手の喋りにちゃんと反応しないと向こうが不安がるので、黙り込まずに相づちをいれるところから始まります。でも「アハ」とか「ンフ」とか言うのは、慣れなくて気恥ずかしい。なめこの真似かと。だから僕はうなずきを多用するようになりました。日本にいたときの100倍くらいうなずいてる気がする。そして、ほんとに「分かったフリ」がうまくなった…。先方の言ってることの半分くらいしか分かってなくても、あわせて笑ってる自分がいる。嫌だなー。嫌だけど、こっちからどんどん反応して、どんどん話しかけていくしかない。相手:「◎△×◯□△!」、自分:「(うなずきながら)ハハハ!グレイト!ところで今◎△って言った?」みたいな。とにかくキャッチボールの回数を増やして精度を上げる。
 
そして唯一、これだけは勉強して良かった、と思うのが、発音です。文法も語彙も置いといていいから、発音からやってみるのをお勧めします。もちろん自分はまだまだだけど、正しい発音をちょっと覚えると、話すのが楽しくなって、通じる確率もけっこう上がる。最初のうちはほんと、カフェに来てるのに「コーヒー」って言葉すら通じなくてメゲたけど、 発音はほんの少し学ぶだけでずいぶん変わりました。
 
でもって、こっちの意思をさらに伝えるために、僕は「ポンチ絵」を多用します。ポンチ絵は、僕が尊敬する東京のアートディレクターの先輩から勝手に受け継いだ手法。絵の力でつたない英語を補足する、と。日本のクリエイティブの打ち合わせは、ビジュアルベースで進める印象があるんですが、こっちは意外と字ベースで進行するんですよね。前にも書きましたが、CMは字コンテが主体だし、アートディレクターから出てくる案も字コンテだったりする。そもそもこっちのアートディレクターって、絵が描けない人も多いんです。デッサンできなくても美大に入れるし。だから日本的にポンチ絵を持って行くと、僕の絵でも「いいね!」って喜んでもらえる。速く伝わる。こうやって、何か「伝える技」さえ持てば、英語がヘタでも大丈夫。パートナーのヨースケ先輩は、ぽつりぽつりと一言ずつ英語を投げかける「ポエトリー・リーディング」方式で戦う。ゆっくりと醸しだされる単語に、アメリカ人は泣きそうな感じで聞き入る。すごい。そしてそんな僕らの天敵が、テレカンです。みんなけっこう電話会議好きみたいで、しょっちゅうやるんですが、相手の顔が見えないとほんとに英語ベタにはきつい。お互いの沈黙が痛い。でも戦うのみ。
 
こっちの人たちは、聞き上手です。何を言っても真剣に目を見て聞いてくれるし、何を言っても Cool!(いいね!)とか、Great!(すげー!)とか、Awesome!(いけてる!)とか反応してくれる。だから気持ちいい。ここは日本人も学ばないとなあと思います。自分だけ言いっ放しで、相手の言うことには無反応、とか、よくあるもんね。いけないいけない。打ち合わせのグルーヴ感を上げていかないと、いい案もしぼんじゃう。しかしこのAwesome!って、ときどき「おぉ寒っ」に聞こえて、面白いこと言ったつもりなのにみんなにディスられてるような気が…。
 
でも、僕と先輩の二人の狭い世界だけで語るのもなんですが、こちらでいろんな会社のクリエイティブ打ち合わせに参加していると、日本式のアイデアは全然負けてない、と感じます。僕らが言葉で戦えないぶん、細かな表現ではなくてごろっと大きいアイデアを出す必要がありますが、ちゃんと戦いの場さえ持てれば、日本っぽいアイデアは、きっと勝てる。日本にいる外国人のタレントさんたちを思い出しても、現地語をネイティブのように上手に話せることは必須じゃない。それよりも、何か、みんなと違うフレッシュな視点をちゃんと持ち続けるほうが大事。英語の壁はたしかに大きいけど、たくましく立ち向かえば、日本も世界一にもなれると思うんです。

佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー

佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)

1971年生まれ。電通入社後コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年9月より電通アメリカ出向、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。手がけたキャンペーンに、ユニクロ「UNIQLO LUCKY LINE」、Honda「ケートラ」、集英社「ワンピース感謝広告」など。世界の川を旅してきたカヌーイストでもある。

facebook : http://facebook.com/yasuharu

佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)

1971年生まれ。電通入社後コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年9月より電通アメリカ出向、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。手がけたキャンペーンに、ユニクロ「UNIQLO LUCKY LINE」、Honda「ケートラ」、集英社「ワンピース感謝広告」など。世界の川を旅してきたカヌーイストでもある。

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