こんにちは。片岡英彦です。第5回目は「Demand Creation」(需要創出)について、戦略広報の視点から考えてみたいと思います。
市場が拡大し続けるような特別な状況を除き、「既存の商品」について、「既存の手法」でコミュニケーションを続けると、通常、その効果は薄れて低下していきます。これを防ぐためには需要創造型のコミュニケーション(マーケティングPR)が重要です。もっとも「需要創造」のためのコミュニケーション戦略が重要だと言われてから久しく経ちますが、実際にうまくいったという事例は極端に少なく、どうすれば戦略広報の活動を通じて「Demand Creation(需要創出)」を行えるかは、広報担当者にとっても大きな課題です。
Apple製品の「需要創出」について3つの戦略広報の視点で考えて見ました。
戦略広報の視点でApple製品の特筆するべき3つのポイント
- Macユーザーは「Cool」だというイメージ
- 商品発表前からすでに「噂」になる
- 操作方法などの「再定義」
MacユーザーはCoolだというイメージ
アップルでは2006年から”I’m a Mac” “I’m a PC”で始まる”Get a Mac.”キャンペーンを実施しました。一見、スティーブ・ジョブズに似た若者と、背広姿のビル・ゲイツに似た中年を起用した比較広告でした。(国内は別バージョン)PCのウイルスに対する脅威など冷やかし皮肉ったようなセリフなどで「Macを使う人」=「スマート」というイメージ戦略を展開しました。その結果、「MacとWinとでは本当はどちらが使いやすいのか?」「使い心地はどう違うのか?」など、広告以外にもパブリシティーが波及しました。当時、利用者のシェアは、圧倒的に優位にあったWinが、少数派だったMacと同じ土俵で「対立軸」として比較され、その結果、Macの需要が喚起されたのです。
商品発表前にすでに「噂」になる
有力なブロガーやネットニュースの編集者、また、市場に影響を与えるいわゆるインフルエンサーにはAppleファンが大勢います。通常Appleは製品発表の当日まで製品の詳細を明らかにしません。このため、新商品の発表時期が近づくと、様々な憶測や噂が広がります。これが他社製品の場合ですと、発売前に出回る情報は、主に広告や店頭での告知など、企業側の目線で発信される情報が多いのです。しかしApple製品の場合、発表日よりもはるか前から繰り返し「噂」として報道がなされます。そして、この憶測がさらに憶測を呼び、発売当日にはすでに盛り上がりはピークに達していることがあります。発売前の需要(プレデマンド)喚起が、さらに発売後の需要へとつながっていくのです。
操作方法の再定義
Apple製品の場合、既存の概念とはまったく異なる画期的な「使い方」が提案されることがあります。例えばiPodでは「シャッフル」という発想が提案されました。また、ミュージックコレクションの全てを携帯し、曲順を入れ替えて聴く新しい「ライフスタイル」の提案が話題となり顧客需要を刺激しました。この他、iPodを首からぶら下げるなど、これまでとは違った操作方法が、Apple製品のデザインのCoolさと相まって新たなライフスタイルの「標準」として消費者間の話題(クチコミ)のフックとなり受け入れられました。
ところで、需要創出型商品を広報戦略の視点から考えますと、その難しさは、商品発表時に「どの程度、話題になるのか」「どの程度売れるのか」が全く読みにくいことです。実際に新商品情報を公開し、販売が始まるまでは、どういった点が顧客に「ウケる」のか、正確に予想がつかないのです。もちろん事前にリサーチをかけて分析することも可能ですが、そもそも、まだ顧客が良くコンセプトを分かっていない新しいタイプの製品を事前調査にかけてもあまり意味がありません。それに、製品情報自体の情報が外部に漏れてしまっては困ります。
このような場合、「予約制」というのは1つの解決策となります。Appleのようなグローバル企業であれば、まずどこかの国でまず先行して予約を開始し、予約数が予測を超えれば、さらに大々的な宣伝広報展開を開始し、生産拡大に打って出ることも可能です。
需要創出型商品の戦略広報を展開する際のポイントは、「とりあえず低リスクで出来ること試してみる」ことにあります。いわゆる「バズマーケティング」「インフルエンサーマーケティング」「タイアップ」と呼ばれるようなコミュニケーション手法も含まれます。広報戦略上、ロジカル(論理的)な思考や数値での評価が大切なことは言うまでもないのですが、論理的思考や数値予測というのは、既存の論理や実績に基づいていることが多く、需要(市場)創出型の広報展開を行う場合に、あまり「論理的」「数値的」な視点でばかり戦略を考えてしまうと、逆に足を引っ張ってしまうケースが実際には多くあります。数値評価が可能な手法ばかりを実施した結果、「木を見て森を見ず」となり失敗した経験が私にも多くあります。
という発想ができることこそが、実は「ロジカル」なのだと、最近では思います。
「たしかに クレイジーにはちがいない。
そうでなければ、他のいったい誰が
無地のキャンパスに 芸術作品を見ることができるだろう?」
(アップル宣言 ―クレイジーな人たちへ)
来週は「モーメンタム・ビルディング」という視点で、AKBとローカルアイドルについて比較と考察を行います。
それではみなさま。また来週。
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