良い企画 悪い企画

企画の定義から始まったこの企画ですが、最終回は企画の話の総論として、僕の考えるよい企画とわるい企画についてお話を展開したいと思います。広告業界で仕事をしていると、「これはイイ企画だね」「この企画はダメだね」といった会話が、毎日のように繰り広げられていると思います。皆さんは企画の良し悪しの判断基準をどこに置いていますか?

企画は結果で判断

新人の頃は企画の判断基準を内容に置きがちです。実際、僕もそうでした。広告業界で仕事を始めた頃、僕は“誰も思いつかないような企画”が良い企画だと思い込んでいました。なので、当時は奇をてらった企画ばかりを作っていました。ただそうやって作った企画は、ほとんど使いものになりませんでした。「斬新だと思っていたのは自分だけ」、「そもそもクライアント要望から外れている」、「問題解決に貢献しない」などの理由で社内チェックに引っ掛かり、クライアントに届かずに終わっていきました。企画の良し悪しを内容で判断していた頃、僕の企画は迷走していました。そんな経験を繰り返しながらも、次第に企画は内容で判断するものではなく、もたらす結果で判断するべきだなと考えるようになりました。今考えると当たり前のことなのですが、初めの頃はこれになかなか気づきませんでした。

良い企画・悪い企画

いい企画・悪い企画

結果を判断基準にすると、企画は大別すると3つに分類されます。①明るい将来へ繋がる企画、②今と変わらない将来へ繋がる企画、③今よりも暗い将来へ繋がる企画、です。それでは、どれが良い企画で、どれが悪い企画なのでしょうか。言うまでもなく「良い企画」とは、①明るい将来に繋がる企画であり、残りの②と③は、「悪い企画」であると言えます。ここで重要なことは、企画を作る時に「悪い企画」にしようと思う人などいないということです。はじめは誰しも「良い企画」を作ろうと思っているのに、出来上がってみると、いつの間にか「悪い企画」になってしまうことがあります。つまり「悪い企画」とは、企画者の無意識のうちに出来あがってしまうヤッカイなモノなのです。

悪い企画のレシピ

「悪い企画」を避けるためには、「悪い企画」の構造をよく知ることが必要です。企画とは、つまるところ「問題の原因と課題」と「解決策」のマッチングに他なりません。企画というと「解決策」の方にばかり目が向きがちですが、本当のキモは、むしろ「問題の原因と課題」に対する正しい認識」にあると言えます。そして、ソレさえあれば、ほとんどの場合「悪い企画」になることはないのです。逆に言えば、どんなに優れた解決策を思い付いたとしても、問題の原因と課題に対する認識が誤っていれば、結果としてその効果を期待することはできません。これは、食材が同じでもレシピが違えば、まったく別の料理が出来上がることに似ています。

狭い受注者視点で考えない

「悪い企画」は「問題の原因と課題に対する誤った認識」から生まれます。これを防ぐためには、より俯瞰的な目線で問題の本質と向き合う姿勢が必要です。この時、注意すべきコトがあります。自分の専門分野や立場といった狭いスコープから「問題の原因や課題」を限定してはいけない、ということです。例えば、僕の会社はオンラインのソリューションを得意としています。そうすると、解決策がオンラインソリューションであることを前提に、問題の原因と課題を整理しがちです。

現実の問題は、常に複合的で多面的な原因を持っています。それを解決するためには、やはり複合的で多面的な解決策が必要です。そして、我々に託される依頼のほとんどは、その解決策の中の一つを考えることに過ぎません。どんなに頑張ってみても、たった一つのアイデアで、今ある問題のすべてを解決することなど出来ません。逆に自分の専門分野や立場にこだわり過ぎると、問題の本質を見誤るリスクが高まります。必要なのは、問題の全体像をクライアントと同じ目線から正しく認識し、その上で自分が貢献できる分野の解決策を検討するという姿勢です。その結果、仮に問題全体に対して、自分が自信をもって解決できる割合がほんの一部分だとしても、それは一向にかまわないのです。それは間違いなく「良い企画」なのです。

とはいえ、クライアントから開示される限られた情報から問題の全体像に迫るのは、はじめは容易ではないかもしれません。しかし、長く付き合うにつれて、だんだん見えてくるコトもあります。はじめから諦めてしまうのではなく、出来るだけその姿勢を貫くことが「良い企画」へ通じる道なのではないか、と思っています。

これまで12回に渡って「企画を通すコツ」をテーマにコラムを書いてきましたが、今回で最終回となります。僕のつたない文章と独断と偏見に満ちた内容に、寛容にもお付き合い頂いた読者の皆さまには、お詫びとお礼を申し上げます。初回のコラムでもお話しましたが、僕は「企画とは常識を疑うことからはじまる」と思っています。ですから、皆さんも僕がここまで展開してきたお話を、そのまんま鵜呑みにするのではなく、存分に否定し、批判してください。それが皆様のネクストステップにとって、ささやかな踏み台になれば幸いです。それでは、またどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。

※連載「企画を通すコツ~オリエンからプレゼンまでの時間の使い方」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

上塘 潤一郎「企画を通すコツ~オリエンからプレゼンまでの時間の使い方」バックナンバー

上塘 潤一郎(ゼンコミュニケーションデザインズ 代表取締役)
上塘 潤一郎(ゼンコミュニケーションデザインズ 代表取締役)

広告代理店の戦略プランナーを経て、ブランド戦略、事業プラン、プロモーションプラン、オンラインプロモーションなどのソリューション事業を提供するゼンコミュニケーションデザインズを設立し、現職。

ゼンコミュニケーションデザインズ: http://zencds.com/

上塘 潤一郎(ゼンコミュニケーションデザインズ 代表取締役)

広告代理店の戦略プランナーを経て、ブランド戦略、事業プラン、プロモーションプラン、オンラインプロモーションなどのソリューション事業を提供するゼンコミュニケーションデザインズを設立し、現職。

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