ブエノスアイレスの夏、日本の未来。
か、顔が痛い!ニューヨークの冬は、寒いより痛いです。こないだの日曜、天気が良かったので散歩にでかけたんですが、寒さと乾燥で顔が痛くて。ちまたで強盗の方がよく使っていらっしゃる、あの目出し帽が欲しくなります。でも今年はまだまだ全然暖かいらしいので、先が思いやられます。
アパートについてる小さな暖炉の使い方にも慣れてきました。僕はカヌーのキャンプでよく焚き火してたので、火の扱いは苦手じゃないんですけど、家の中で直火を焚くのは、外でやるのとまたコツが違うようです。灰が部屋に飛ばないよう、小さな種火でやさしく薪を温め、薪たちの気持ちを高めてあげて、一人ひとりの薪の活躍するスペースをちゃんとつくり、風通しを良くして、強く熱く完全燃焼させる!って、これ日本に帰ったら全く使えない知識じゃん…。でも、部屋の中で燃えさかる炎をじっと眺めるのって、楽しい。時間があっというまにたってしまいます。この原稿が遅れたのもそのせいです。すみません言い訳です。
というわけで、寒い時に寒い話をしてもなあと思い、今回は、先日行ってきたアルゼンチン出張のお話をしたいと思います。ブエノスアイレスにて、11月にEl Ojo de Iberoamerica(エル・オホ・デ・イベロアメリカ)という広告祭があったのですが、弊社顧問の杉山恒太郎が講演をすることになり、佐々木がそのお手伝いに行くことになったのでした。アルゼンチンは夏。アルゼンチンは肉。アルゼンチンは熱かったのです。
ニューヨークから飛行機で10時間。日本からだと24時間。南米のパリ。まあパリのことはよく知らないので本当かどうかは分からんのですが、とっても素敵な街並みです。精巧な装飾がほどこされた石造りの建物。歴史を感じさせるカフェやレストラン。ブロックが割れてでこぼこになった歩道。ボロボロのタクシーや、使われてない鉄道。そう、アルゼンチンは、いちど経済破綻した国。かつて世界でも五本指に入る裕福国だったこの国は、その後いろいろあって現在に至ります。
でも、人々の心はすさんでいません。明るくて、愛国心があって、誇り高くて、やさしい。街や家は花であふれ、道行く人は気品があって、道行く犬にも気品がある。わんわん。そうか、日本もこれを目指せばいいんだ。いろいろあった今年、経済とかは思うようにいかなくても、元気までなくさなくてもいいよね。心の錦が大事なんだ。だから僕は、誰かに会うたびに「アルゼンチンはこれからの日本の見本です!」って言ってます。肉もワインも安くて本当においしいし、女性もかわいいし、女性もかわいいので(あれ、2回言った?)、僕は一気にアルゼンチンのファンになったのでした。
南米の熱にやられる。
そんな素敵な国で開催されるこのEl Ojo(エル・オホ)広告祭には、南米各地の人たちが集まってきています。南米の広告は、熱いです。グラフィック広告やCMは、欧米と同じレベル。スペイン語が分からなくてもぐいぐいいける。ちょっとアイデアの押しが濃い目。そしてデジタルをはじめとする新しい広告もかなり熱い。ブラジルなんかは、いまだにTVメディアがとっても強い国ですが、それと同時にデジタル&ソーシャルメディア先進国でもあります。
そして僕がとても好きだった、今年のカンヌ金賞のアウトドア広告「Coca Cola:The Friendship Machine」なんかも、アルゼンチンのものだったんですね。この広告祭でグランプリのひとつをとっていて、初めて南米発だと知りました。他にも、例えばコロンビアの「The Code」は、モールス信号が埋め込まれた音楽を使って、反政府ゲリラの捕虜になった兵士たちに希望を与える、という、日本で暮らしていたら思いもつかないようなプロジェクトで、印象的でした。
杉山と僕の講演は、日本発の広告イノベーション、というセッションだったので、ソーシャルメディアを動かしたCMの事例とか、携帯やスマートフォンを使ったキャンペーンの事例とか、慣れない英語で一生懸命お話しました。
挨拶だけスペイン語でやってみたら、会場からすごい拍手が。なんだこれ、みんな熱いっ。そして、技術のイノベーションだけでは人の心は動かない、エモーションをちゃんと持っていかないと、というお話の流れで、日本の歴史的名作CMなどもいくつかお見せしたのですが、これにも大拍手。おお、通じてる。僕も、今ソーシャルメディアでのマーケティングが全世界的に流行っているけど、マーケティングのことばっかり考えないで、もっとユーザー視点でちゃんとクリエイティブの設計をしないとだめだよう、個人データ泥棒みたいなアプリやサイトはブランドがやせ細るだけだよう、というようなお話をしました。
まあみんなスペイン語やポルトガル語ネイティブだから、英語が下手でも、少し気が楽です。だからいい気になって「日本のケータイはガラパゴスと言われてて、進化がちょっと変なんですよねー」なんてアドリブ含みで言ってみたら…、会場から「すみません、僕エクアドルから来たんですけど、ガラパゴスってエクアドル領なんです。そんなふうに言っちゃイヤっ!」とツッコミがっ!あわあわ。そして「エクアドルでもスマートフォンアプリが流行ってきているのですが、アプリ課金のビジネスモデルについてどうお考えですか?」なんて質問がっ。あわあわ。その後も数々の熱い質問攻め。みんなほんとに熱い。しどろもどろになりながら、なんとかお答えしたのでした。ぜえぜえ。その後も、ペルー、コロンビア、ブラジルなどのメディアの方々から取材を受けて、南米でのモバイルやソーシャルメディアへの注目度の高さを痛感しました。
こうして、ちょっと見て触れて話しただけなので、決めつけられませんが、南米のいいところは、熱しやすく燃えやすいところな気がしています。ふとした思いつきに、わああと盛り上がって、オモシロがれるところ。なんかね、クライアントとクリエイティブが同じテーブルについて、一緒になって楽しんで作ってる気がする。データじゃなくてユーザーを見てる気がする。そうじゃないと、こんな元気な広告がここに並ばない。日本のクライアントもクリエイティブも、冷めちゃわないで、もっと燃えやすくなってほしいなあと思いました。南米の人たちみたいに燃えてほしい。うちの暖炉の薪みたいに燃やしたい。
たった3泊のアルゼンチン。熱い思いをおみやげにして、帰りの空港でさらなるおみやげをあさっていたら、「ササキ!」「ササキ!!」と呼ぶ声が。どうやらセッションを聞いてくれてた人たちらしく、逃げる間もなく免税店のまんなかでわあわあと取り囲まれました。名刺くれだの、握手してくれだの、記念撮影してくれだの、一般人に何するつもり?恥ずかしいったらない。でもありがとう。おまいら熱いよ!この旅はほんとに、いい経験になりました。さて、今回はいくつ「熱い」って書いたかな。この熱がちょっとでも日本に届くといいなあと思いつつ、これで今年の記事はおしまいです。本年もありがとうございました。来年は、ほんとに、いい年にしたいですね。
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追伸。アルゼンチンで撮った写真をflickrにあげたので、もしよかったらご覧ください。もしよかったらぜひ行ってみてください。楽しげな写真ばっかりですけど、仕事ですからっ。
佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー
- 第6回 英語ができなくてもいい、たくましく育ってほしい。(12/8)
- 第5回 給料がもらえなかったけど、僕は元気です。(11/24)
- 第4回 イタリア人が激怒。アメリカ人は早口でまくしたて、ブラジル人は静かに笑った。そして日本人は…。(11/10)
- 第3回 東京から来た社長に、ディグダグで遊んでるところを見られる。(10/27)
- 第2回 君は、ニューヨークの女子高生を泣かせることができるか。(10/13)
- 第1回 ニューヨークに転勤して初出社したら、席がなかった。(9/29)