文:AKQAチーフ・クリエイティブ・オフィサー レイ・イナモト
世界を舞台に活躍するレイ・イナモトさんが考える日本の強さとは。日本のコミュニケーションビジネスの今、そしてこれからを考える全4回の短期連載。(この原稿は「宣伝会議」12 月15日号に掲載をされたものです。レイ・イナモトさんの連載は、「宣伝会議」15日発売号に全4回シリーズで掲載の予定です)
【AKQAレイ・イナモト「MADE BY JAPAN」③―「Agency of Tomorrow」次世代のエージェンシー】前篇はこちら
3つの“S”
ついこの間ある会話の中で、こんなことを話した。
「会社を始める際、必要なのはハッカー、ハスラー、ヒップスター」
“When you start a company,you need a Hacker,a Hustler,and a Hipster.”
ハッカーはコンピュータのプログラムやデータを破壊する人。ハスラーは賭博師、もしくは実業家。そしてヒップスターはトレンドに明るい人。つまり企業にはテクニカル、ビジネス、クリエイティブそれぞれの知識や能力を持つ人材が必要というわけだ。ただ多くの業界を見てみると、3つの能力を持った人、役職が連携していることは少なく、いずれか2つのコンビである場合が多い。
例えばテクノロジー業界。アップルの創始者である2人のスティーブは「エンジニア」と「マーケター」のコンビだ。映画業界は、スタジオジブリの宮崎駿と高畑勲のような「監督」と「プロデューサー」のコンビ。レストラン業界は「シェフ」と「マネージャー」。広告業界は「営業」と「クリエイティブ」といった具合に。
これまでの話で、「クリエイティブ」と「テクノロジー」がコンビになる必要があるということはお分かりいただけただろう。別のいい方をすれば、これは「Story/物語」と「Software/ソフトウェア」の融合だ。
そしてもう一つ必要な役割がある。次世代のアイデアを形にする上で、ビジネスの土台になる「Strategy/ ストラテジー」が必要とされているからに他ならない。つまり「3つのS」だ。この3つはどれも、実現するためには、シンプルかつ根本的な質問に答えなければいけない。
「ストラテジー」は「何故か」
(Strategy=Why)
「物語」は「何か」
(Story=What)
「ソフトウェア」は「どうやって」
(Software=How)
この質問に答えられる人たちを「3つのS」(ハッカー、ハスラー、ヒップスター)と表現したのだ。会社の組織、またチームをつくる際、この3つの質問を踏まえ、戦略がつくれる人材、物語がつくれる人材、そしてソフトウェアがつくれる人材が必要になる。つまり「Strategist, Storyteller, Software Developer」だ。
例えば強いサッカーチームは、点を取れるプレイヤー、ゲームをつくれるプレイヤー、そして守備ができるプレイヤーが揃っている。強くなれないチームは、このどれかが欠けている。
「Agency of Tomorrow: 次世代のエージェンシー」は「3つのS」が連携プレーをしながらアイデアを出し、エクゼキューションを融合させていく必要がある。それをもとにプロジェクト・マネジャーやプロデューサーがチームに加わり、アイデアが形になるというわけだ。
AKQAレイ・イナモト「MADE BY JAPAN」バックナンバー
- 特別篇―「Agency of Tomorrow」次世代のエージェンシー
- 第3章(前篇) 「Agency of Tomorrow」次世代のエージェンシー
- 特別寄稿―僕とジョブズと「海賊の会社」
- 第2章 Idea & Executionアイデアとエクゼキューション
- 第1章 世界に通用する日本の未来
レイ・イナモト(稲本零)
英Creativity誌「世界の最も影響のある50人」の1人にも選ばれた、世界を舞台に活躍するクリエイティブ・ディレクター。R/GA、Tronic Studioなどを経て、2004年10月、欧米大手デジタル・エージェンシーAKQAにグローバル・クリエイティブ・ディレクターとして入社 。2008年にはチーフ・クリエイティブ・オフィサーに昇進。2010年には日本人として初めてカンヌ国際広告祭チタニウム・インテグレーテッド部門の審査員に抜擢されるなど、「広告業界のイチロー」とも呼ばれている。
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