安田健一(コピーライター・クリエイティブディレクター)
すべりこんだ、30歳。
受講生のころから「もしも自分が講師になったら」という妄想のもと、90分の講義脚本を書いていた私ですが、専門コースを修了して3年後、コンサルティング会社のコピーライターという枠を、なんとかつかみ取りました。
「表現するな。」
そこでの仕事は、M&A後に新体制でスタートした企業の、経営理念の立て直しやCIを考えること。コピー講座ではそんな課題はありません。コピー年鑑にも載っていない・・
ボスからの指示は「ヘタな表現はするな、以上!」。
たしかに経営者の方々の創業時の話や商品開発者の話は面白く、切り取り方次第で強いコピーになる。・・と、その気になって考えようとしても、そう簡単にはいかない日々。講座での「コピーは作るのではなく、発見しろ」という言葉の意味と、その難しさ、身をもって知りました。
求められたら、それが役割。
フリーランスになって、あるインテリア会社から新ブランドを立ち上げの相談をうけたとき「まだ、広告をうつには早すぎます」と話したら、打ち合わせの内容が、広告ではなく事業部づくりへと進んでしまいました。うーむ・・組織作り専門ではないし、という迷いを、当時の講師だった麻生哲朗さん(TUGBOAT)に相談すると「求められているなら、責任もってやる」とひとこと。
その気になった僕が最初に提案したことは、社長室の模様替え。インテリア会社ですし、定例会議をつくり、それを社長室で行う。またしても企画前の土俵づくりです。でもこの仕事で、やっとグラフィックのシリーズ広告にありつけました。
熱い人に弱いのです。
そんな日々の話を友人(講座の同期)と打ち合わせ中にしていると、それを聞きつけたプロデューサーから声をかけられました。
「コピーはもちろん、会場全体の見せ方を考えてほしいのですっ!」と、米国帰りのモトムラPの熱い4時間プレゼンに押され、その気になった僕はご縁と勢い!ということで、気づいた時には「世界を変えるデザイン展」の実行委員になっていました。
発展途上国での生活を救う製品を、紹介するイベント。僕は途上国に旅行ですら行ったことがありません!けどきっと大丈夫!
感情的にならずに書く。
このイベントでは来場者に「かわいそう」ではなく「私も(うちの会社でも)、そんな製品ならすぐ作れるよ」と思ってほしかった。
なので、まず現地の情報を伝えなくちゃいけません。
そして展示される製品は「自宅用出産キット」や、「注射針を再使用させないための容器」など、いまの日本では考えられないものがほとんど。出産キットといっても凧糸とカミソリがあるだけ。これ使って、自分で産めってこと?
でも、そのような感情的な言葉は使わず、どのような効果を与える製品かを、コピーとピクトグラムを使って伝えました。
と、広告以前のことから着手していくことが、いい広告作りにつながると思っています。
安田健一(やすだ・けんいち)
コピーライター・クリエイティブディレクター。1976年東京生まれ、フリーランス。WWFジャパン「いいなあ人間は。高齢化が悩みなんて」、世界を変えるデザイン展、クレディセゾン「あなたと、一生プレミアム」、ローソン「素材に素直なおいしさ。フロムナチュラルローソン」、ジェラートピケなど。
東京コピーライターズクラブ新人賞受賞。
コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常 バックナンバー
『コピーライター養成講座』
講師は一流のコピーライターが直接指導 プロを育てる実践型カリキュラム
いまでも多くの有名クリエイターを輩出している本講座。幾度かの改変を経て、内容を一新。コピーやCMといった、広告クリエイティブだけでなく、インタラクティブ領域のコミュニケーション、マーケティングやメディアクリエイティブなど、さまざまな視点からコミュニケーションを構築する能力を養い、次世代のクリエイターを育てます。