江戸の創業から300年続く、老舗流のブランドマネジメント~シリーズ「ブランドマネジメントの今」第3回

1716年創業「中川政七商店」(奈良市/従業員数200名)
ブランドマネージャー 石田香代氏の場合

欧米に端を発すると言われる、ブランドマネジメントという考え方。日本の老舗や中小企業も、積極的にブランドマネジメントに取り組み始めている状況について、レポートしている本シリーズ。今回は江戸時代から麻織物を扱い、全国に29店舗を展開する中川政七商店(奈良県)のブランドマネージャーが登場。創業300年の老舗がいま目指す、ブランドのあり方とは。

※『宣伝会議』15日発売号にて、宣伝会議主催のブランドマネージャー育成講座と連動して連載中のシリーズ「日本企業とブランドマネジメントの今」より抜粋。本記事は2011年11月15日発売号に掲載されたものです。

ブラマネ自身の素顔も自社サイトで公開する

ブランドマネージャーと言えば、外資系の消費財メーカーで多く見られる職種である。日本の大手メーカーでも一部、ブランドマネージャー制を導入する企業もあるが、決して一般的な職種とは言えない。そのような中で、300年の歴史を持つ日本の老舗企業がブランドマネージャー制度を導入している。1716年に創業し、奈良市内に本社を置く中川政七商店だ。

同社がブラマネ制を採用したのは、2009年のこと。それまでは代表取締役社長の中川淳氏(13代目)が自ら、すべてのブランドマネジメントを手掛けていた。現在ではコーポレートサイトにて「遊 中川」「粋更kisara」「中川政七商店」という3つのブランド紹介とともに、それぞれのブランドマネージャーの名前と写真が公開されている。

中川政七商店

2009年から「粋更kisara」のブランドマネージャーを務める、石田香代氏もその一人だ。サイトでは各ブランドのコンセプトや商品紹介はもちろん、石田氏自身の個人ブログやプロフィールも公開している。それは「ブランドには人格があって、それを体現しているのが私たち。生活雑貨を扱っているからこそ、より人の体温を感じられるようなブランドでありたい」という思いからだ。

表参道ヒルズ店のオープンで、ブランドの世界観が定まった

同社は麻織物を扱う問屋として創業。1983年から小売に参入し、表参道ヒルズや東京ミッドタウンなど29店舗で自然素材を使った生活雑貨・衣料を販売するほか、インテリアショップなどに製品を卸している。さらに昨年、奈良市内に茶房をオープンしたほか、伝統工芸などの活性化をサポートするコンサルティングも手掛けるようになった。

石田氏が中途入社したのは2005年。現在の担当ブランドである「粋更kisara」は03年に生まれたが、ブランドづくりを強く意識するようになったのは表参道ヒルズに直営店をオープンした06年以降のこと。当時は同店の店長として勤務していた。「商品はあったものの、以前はブランドの世界観を十分に表現できていなかった。店舗が存在することで、お客さまやバイヤーにもブランドをしっかり理解してもらえるようになったと思う」と振り返る。

「粋更kisara」直営店

東京・表参道ヒルズの「粋更kisara」直営店。麻・木・漆・陶・葛などの自然素材を用いた生活雑貨や洋服などを扱う。

花ふきん

奈良県の特産品であった蚊帳生地を使った「花ふきん」は中川政七商店のロングセラー商品。2008年度にはグッドデザイン賞金賞を受賞。

粋更のブランドコンセプトは「日本の贈りもの」。「遊 中川」よりも色味を抑え、より素材感を活かしたナチュラルな印象。贈りものの包装には、白い和紙と水引を用いた「折形」という日本の伝統的な作法を用いているのも特徴だ。

「日本の贈りもの」には必ずストーリーがある

09年に店長と兼任でブランドマネージャーに就任した石田氏だが、他社のブランドマネージャーと同様、ブランド全体の予算組みや商品政策、企画・製造、プロモーションまで一貫して取り組むことになる。当初は何から始めれば良いかが分からなったが、やがて「客観的にブランド全体を見ながら、あらゆる決断をしていくことが自分の仕事」と実感できるようになった。

同時に「他社のブランドマネージャーは現場で、一体どんな風に働いているのか?」という疑問をもち、2010年3月、宣伝会議のブランドマネージャー育成講座に通うことに。書籍を読んでもいまひとつ理解できなかったマーケティングの基本を改めて学ぶとともに、「中川政七商店が培ってきた、ブランドづくりの手法は間違っていなかった」と確信を得ることができたという。

「ブランドマネージャーは業務範囲が広いので“ゼネラリスト”のような存在だと思われがち。でも実は、誰よりも担当ブランドのスペシャリストでいなければいけない。ブランドについて何か質問されたら、いつでも即答できるような存在になるのが理想」と石田氏は語る。

さらに中川政七商店ではこの11月、新たにくつしたのブランド「2&9(にときゅう)」を立ち上げた。くつしたの産業が盛んな奈良発で、地元のメーカーと丁寧なものづくりに取り組んでいきたいという思いがある。「ものの背景には必ず、物語がある。日本の伝統技術を活かしながら、作り手から使う人、贈る人から受け取る人まで、それぞれに込められた“想い”を密につないでいけるブランドでありたい」。

中川政七商店 粋更kisara ブランドマネージャー 石田香代(Kayo Ishida)
神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。住宅メーカー勤務後、2005年中川政七商店に入社。「遊 中川」「粋更kisara」直営店長、エリアマネジャーを経て、2009年に「粋更kisara」ブランドマネジャーに就任。

シリーズ「ブランドマネジメントの今」

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