親善大使はイメージキャラクター
最近、オフィスの仲間からクリスマス休暇中にローマで無料コンサートがあったという話を聞きました。なんと、FAOの親善大使が勢揃いする豪華な内容で広報局の同僚の発案によるものだったとか。インドネシア出身の国際歌手Anggun(アングン)や元ボーイゾーンのリードボーカルでアイルランドの歌手Ronan Keating(ローナン・キーティング)などが登場して、とっても素敵なコンサートになったそうです。(ハイライトはこちらをご覧ください)
見逃してしまったのは惜しいのですが、これをきっかけに今回はFAOと親善大使のコラボレーションについて考えてみたいと思います。
親善大使というのは国連やNGOなどの活動を広報したり、対外的な交流(文化的な案件が多い)を促進する任務を与えられた人を指します。FAOでは事務局長によって任命され、いわゆる国際交渉や国益の促進を業務とする「大使」とは違って外交特権などは持たず、イメージキャラクターとしての仕事が期待されます。主に芸術家や作家、スポーツ選手や役者など世界的にも知名度があり、組織のマンデート(使命)に共感をもってメッセージを代弁してくれる人が選ばれているようです。FAOでは日本でも有名なセリーヌ・ディオン、スーザン・サランドンをはじめとして30名以上の親善大使が活躍しています。
FAOで親善大使とのコラボレーションを手がけているのは、この道10年というベテラン職員でイタリア人のロザリータ・パガノ氏。英語の他にイタリア語、フランス語、スペイン語が堪能です。「FAOの親善大使プログラムは1996年に開かれた世界食糧サミットで提案されて99年にスタートしました。この背景には、当時、食糧危機がますます深刻化し、有名人の才能影響力を借りて食糧安全保障の実現に全力を尽くさなければならない、という関係各国、国際機関、市民団体の声がありました」とロザリータ氏は振り返ります。
驚きの低予算システム
こうして最初に任命を受けたのは、南アフリカ出身の歌手Miriam Makeba(ミリアン・マケバ)、イタリアの女優Gina Lollobrigida(ジーナ・ロロブリジーダ)、アメリカの歌手Dee Dee Bridgewater(ディーディー・ブリッジウォーター)、イタリアのノーベル受賞科学者Rita Levi Montalcini(リタ・レヴィ・モンタルチーニ)の4名でした。たった10年ほどでこの親善大使は30人まで増えたので、ロザリータ氏は大忙しです。
「親善大使として貢献していただく方には任命前と後にFAOの仕事や関係ある世界規模の問題についてレクチャーを受けていただきます。それに加えて、想定問答集とメディア向けのコメントなどもこちらで用意して勉強していただきます」。ということで、親善大使はかなり多くの専門知識を学ぶことが期待されているようです。そもそも目的がFAOのミッションやビジョンのメッセンジャーになっていただくとともに、飢餓に苦しむ人が10億人近くいるという現実をメディアと一般の方にアピールしていただくことなので責任は重大です。
気になる経費ですが、他の国際機関はともかく、FAOでは基本的にギャラは発生せず、交通費もできるだけスポンサーを探して組織のお金を使わないようにしているそうです。「実は国連の中では、親善大使プログラムのためにレギュラーの予算枠を設けていないのはFAOだけなんです。なので、想像力と知恵を使って、さまざまな方法でお金がかからないイベントや広報プランの企画をしなければなくて、大変!」。
これは重要なポイントで、親善大使の任命の大前提は、無報酬の慈善事業なのです。なので、セリーヌ・ディオンに歌ってもらうときも、FAOからギャラは発生しません。親善大使プログラムは実質、ロザリータ氏が一人で回している状態で、とっても忙しい女優さんやスポーツ選手のスケジュールのやりくりも苦労が多いようです。
ピエール・カルダンとコラボファッションショー
FAOの親善大使は、実にさまざまな活動をしています。例えばアフリカの角(ソマリアとエチオピアの一部の半島で大規模飢餓が発生)など緊急に援助が必要な地域への資金集めや、緊急アピールのためにチャリティイベントを開いたり、公共広告CMに出演してもらったり、テーマソングを作ってもらったり。親善大使に選ばれる方は芸術やファッションなど、一芸に長けているので、そうした「長所」をうまく引き出す形でコラボレーションすることもあります。
去年の夏にローマのフランス文化会館の庭を使って開催されたピエール・カルダンとのファッションショーもその一つです。「ソマリアなどでの飢饉が大変な問題になっていた時期で、カルダン氏はファッションを通して何か貢献したいと思ったようです」とロザリータ氏。そうして1年かかりの準備がスタートしました。会場の設営費、モデルさんやスタッフの経費などファッションショーにかかる経費は全てピエール・カルダン氏が出してくれ、当日の来場者からの寄付が緊急援助に回ったそうです。
私もこのショーの設営から見学に入ったのですが、高齢にも関わらず国際貢献をしたいというカルダン氏の気持ちに熱いものを感じました。写真撮影で談話するチャンスがあり、私が日本人だと分かると、「震災の後、日本はどうですか。デザイナーとしてデビューしたての頃、来日して歓待してもらった。以来、日本は私にとって第二の故郷に近い存在です」と嬉しいコメントも。大勢のスタッフに気配りを忘れない姿が印象的でした。
チャリティショーの開催だけでなく、カルダン氏はサイン入りTシャツを作ることも快諾してくれて、EndingHungerキャンペーンのコラボTシャツもできました。ショーの後にはモデル達全員にそのシャツを来てもらって、キャンペーンのアピールもできたわけです。
このイベントは、資金調達とアドボカシーキャンペーンの一石二鳥になりました。親善大使を活用した広報の秘訣は、親善大使の気持ちと特技を組織として伝えたいメッセージとうまく組み合わせる、というところにありそうです。
これからはソーシャルメディアを通して親善大使のファンベースにコミュニケーションを直接取っていったり、ファッションや音楽、スポーツの力を使って世界の問題解決に貢献するコラボレーションがどんどん生み出されることが期待されます。
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