僕らのすてきなチーム。
いま、ニューヨークからとある国に来てこの原稿を書いています。ここは、ゴミひとつ落ちてない街。段差も凹凸もない歩道。ピカピカの電車。たくさんの人が行き交うけど、パトカーのサイレンも叫び声もない静かな都市。なんて素晴らしい所なんでしょう。ここは東京。四カ月半ぶりの、世界に誇れる街、東京です。
ととと、まるで冷静を装った書き出しでしたが、久々の東京出張だっ! ラーメン!焼肉!カレーライス!寿司!東急ハンズ!ラーメン(既出)!温泉!ええと、あと何にしようかな…。1週間しかない限られた時間を有効に使わねば。ほんと、東京っていいところですよね。しかし出張中にラーメンばっかり食べて遊んでいると思われると、ニューヨークの会社のみんなに示しがつきません。あだ名がミスター・ラーメンとかになりかねません。なので、ニューヨークのクリエイティブ・チームからメールで届いたプレゼン用カンプのPDFをiPhoneで開きながら、細かな指示コメントを返信します。ラーメン屋から。おかげで僕のiPhoneは今ちょっと油っぽいです。
僕とヨースケ先輩のもとには、いくつかのクリエイティブ・チームがいます。それぞれのチームが僕らに案を持ってきて、そこに僕らがディレクションする、という仕組みです。こちらでは、コピーライターとアートディレクターが2人でペアになって、いつもずっと同じペアで仕事をするのがふつう。みんなそれぞれキャラが違って、面白い奴らです。
チームを簡単に紹介しましょう。ドメニク&クリステンは女子2人組です。いつもキャンペーンのすみずみまでアイデアを行き渡らせてくれるから、安心できる2人。サラ&マーガレットも女子組。そもそも、アメリカの広告業界は女性比率がとっても高いんです。クリエイティブだけじゃなくて、アカウント(営業)にも、クライアント側にも女性が多い。共通点といえば、みんな強くて自信にあふれてることかな。サラはたぶん20代前半だと思うけど、とてもしっかりしてて、お姉さま!って呼びたいくらい。お姉さまっ!それからミクナ&デイビッドの男子組。ミクナはルーマニアから来たコピーライターで、とっても優秀です。
英語ネイティブじゃない国から来て、こうしてコピーライターとして活躍できるって、日本人としても見習いたい。アメリカでコピーライター、僕らだってきっとできるはず!それからデイビッドはフリーランスのアジア系。がんばれアジア系。彼はいつも陽気で、ちょくちょく僕らの部屋に来ていろいろ話をしてくれて、そしていつも頑張って徹夜作業をしてくれる、デジタルが得意なアートディレクター。実はデイビッド、僕にとっていい感じの英語の先生なんです。「Hey man!」とか、カジュアルな言い方、なかなか英語学校じゃ習えないから…。
そして4組目が、キムとルイス。キムがコピーライターでルイスがアートディレクター。このペアのアイデアは本当にいつもクオリティが高くて、頼りになる。表現をこねくり回すとかじゃない、ごろっとしたアイデアがいつも見える。
他のチームとは一段階、安心度が違う。そしてこのキム・ルイコンビが、こないだ僕らに言いました。「そろそろ辞めることにしたよ。もうずいぶん長くここにいるしね」。えっ!?(すみません、コラムタイトル、釣りっぽくて…)
さよなら、キム・ルイ。
前にも書きましたが、こっちの人たちは、次々とジョブホッピングするのがふつうです。会社を辞めることはニュースにならない。自分のキャリアを磨くための場所が他に見つかれば卒業していく。逆に、仕事ができなければすぐクビになる。クビになるときなんかは、朝出社したら突然「解雇です」と言われて、会社への入館証もその場で奪われて、その日のうちに荷物をまとめて出ていく、みたいなケースもあります。
もちろん、キム・ルイの場合はとっても優秀だったので、惜しまれつつも去っていく方です。寂しいけれど、なかなか無い機会なので、彼らに直撃インタビューをしてみました。
佐々木 「ずいぶん長くここにいたって言うけど、何年くらいいたの?」
キム・ルイ 「2年ちょっとかな」
佐々木 「2年!日本人的には全然短いよそれ」
キム・ルイ 「こっちだと『もう2年も同じところにいるなんて!』って感じだよ」
佐々木 「ずばり、どうして辞めちゃうの?」
ルイス 「やっぱり、もっとたくさん成果をあげたいから。いろんな所で自分の可能性を試したいし」
キム 「私はこれから一旦学校に戻って、ジュエリーデザインを学ぶの。そして引き続きフリーランスとしてこの会社にも顔出すつもりよ」
佐々木 「いいなあ可能性。いいなあ若さ。自分の未来を自分で作るって、よく考えたら当たり前なことだけど、でも日本ではなかなか難しい面もあるんだ」
キム・ルイ 「難しいなんて言わずに、いろいろやればいいのに。若さっていうけど、Yasuは何歳なの?」
佐々木 「40歳」
キム・ルイ 「えーっ!・・・(そうは見えないけどもうそんな歳なのね、という顔)」
佐々木 「・・・(泣)」
佐々木 「(涙をふいて)ペ、ペアで一緒に辞めるんだね」
キム・ルイ 「ペアだからね。今回でまたしばらくペア解消だけど」
佐々木 「こっちの人たちは、ずっとペアで行動するの?」
キム・ルイ 「私たちは学生のときからペアを組んでて、その後一度別れたけど、今の会社に入ったときに再結成したんだよ」
佐々木 「プライベートとは別に、仕事で長くパートナー関係でいられるのって、すてきだよね」
佐々木 「今の広告業界、どう思う?」
キム・ルイ 「あいかわらず刺激的で、楽しいよ。他の業種には無い魅力が今もある。広告業界で働きたいって人は今も多いよ」
佐々木 「アメリカ全体的にそういう感じなのかな?」
キム・ルイ 「特にニューヨーク地域はアツいよね。他のエリアじゃこういう面白い仕事はできないからね」
佐々木 「デジタルについてはどう思う?」
キム・ルイ 「すごく面白い。いろいろやってみたいんだよ。クリエイティブの全員がデジタルに強い興味を持っていると思うよ」
佐々木 「日本だと、デジタルとトラディショナルの人がなかなか交わらないんだよね。お互いに壁を作っちゃってるというか」
キム・ルイ 「こっちだと、クリエイティブは両方こなすのが普通だけどね」
佐々木 「そうあるべきだよね。ねぇ、いつか東京に来てよ。また一緒に仕事しようよ」
キム・ルイ 「東京行きたい!!」
この翌日、彼らの Farewell Drink(お別れ飲み会)が開かれました。こっちでは、去る側がみんなを呼びます。飲んで、騒いで、飲んで、笑って。またいつか仕事できるかもしれないけど、お別れはお別れ。がんばってほしいな。今、白いレゴブロック細工のような東京のビル群を眺めながら「東京行きたい!!」って言ったふたりの顔を思い出しているところです。
佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー
- 第9回 今日からいきなりチームの責任者、そして明後日プレゼン?何…だと…?(1/19)
- 第8回 先着20名様にプレゼントが届くコラム。(1/5)
- 第7回 アルゼンチンの空港で取り囲まれる。(12/22)
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- 第4回 イタリア人が激怒。アメリカ人は早口でまくしたて、ブラジル人は静かに笑った。そして日本人は…。(11/10)
- 第3回 東京から来た社長に、ディグダグで遊んでるところを見られる。(10/27)
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