次々に発表される地震確率に惑わされるな。重要なことは対象データにある
東大地震研究所は2月5日、4年以内のM7級の首都直下型地震の発生確率について70%から50%以下に下げると発表した。これまでの予測は、昨年9月10日までに起きたM3以上の地震データに絞って計算していたが、今回は12月31日まで期間を広げて再計算した結果に基づくものとしている。その結果、4年以内の発生確率は50%以下、30年以内でも83%以下と減少した。
研究機関からの発表は計算工程の間違いではなく、計算データの取り方により大きく変化する。一般消費者は各研究機関から発表される確率がどのようなデータ(対象期間)によって計算されたかに注目する必要がある。地震の発生確率については基本的にグーテンベルク・リヒターの関係式にあてはめて計算されることが一般的で、これまで発表された確率が計算上間違っていたわけではない。
5日に修正された東大地震研究所の4年以内50%以下の確率についても同様の計算式にあてはめたものだが、すでにこの数値すらも陳腐化しつつある。なぜなら、既に京都大学防災研究所が試算した確率は、今年1月21日までの最新のデータに基づいたもので、5年以内28%、30年以内64%とより低い数値を発表したからである。
したがって、短期的な見方によれば、最近の傾向は徐々にではあるが落ち着いて来たと見られる一方、長期的な見方によれば、3.11以降、周期的には首都直下型地震がいつ起きてもおかしくない状況にあるという微妙な予測となる。簡単に言えば、近い将来確実に発生する可能性のある地震に備えて準備は必要ということになるだろう。
東大地震研究所の警鐘が意味するもの
東大地震研究所が公表した「4年以内70%」が一人歩きした背景には、その数字のインパクトもさりながら、「研究機関の予測」という報道の機会が日本であまりに少ないことにある。欧米では多くの研究機関がセンセーショナルな成果発表を行い、マスコミもそれを取り上げる機会が多いが、日本ではよほど社会的影響を及ぼす情報でない限り、国民の目に触れることは少ない。東大地震研究所の発表は、意図したかどうかは別として多くの国民に影響を与え、議論され、他の研究機関(北大、京大、筑波大など)を刺激してさらなる研究成果の発表につなげた。その意味で東大地震研究所の行った発表は、首都直下型地震の再認識とその準備に対する大きな警鐘となったと言える。
本来、研究機関や学識経験者の発表は、このような場で活性化され、有益な情報として社会に還元されるべきである。日本ではこのような機会が少なく、突然発表が行われるとその情報にしがみついて動揺しがちだが、今後は多くの研究機関から各方面の情報が開示され、国民はそれらの情報を選別し評価するテクニックが必要となるだろう。
今回の一連の地震確率の発表に関連して、私自身が「自分の身を守るためのガイドライン」を投稿させて頂いた他、「地下で遭遇した場合の脱出マニュアル」や「電車、高速、オフィスでの心構え」など、身を守るための多くの情報が公開された。このように危機情報が報道されることで、多くの媒体を通じて研究機関や専門家から情報が提供されるネットワーク社会の利便性を、我々はうまく活用すべきである。そのためには、国も「パニックになるから・・・」という憶測で情報を制限するのではなく、正確な情報をできるだけ早く国民に知らせるしくみが重要と考える。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
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