過去からの習慣と新しさの組み合わせで「心に響く」提案を常に行う

日本香堂 代表取締役社長 小仲正克 氏

トップはアイデア販促マン~経営陣が語る販売促進(販促会議2012年3月号より)

テレビCMの実施が商品ブランドの訴求力を高める

こなか・まさよし/1967年東京都生まれ。立教大学経済学部卒業後、三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。95年に家業の日本香堂に入社。研究室、事業開発本部長、常務取締役を経て、2000年に32歳で社長に就任。海外のブランドと提携するなど積極的に展開し、業界の牽引力となる。

「富士山をバックに、連凧上がっていく映像、青い雲」といえば、だれもが知っているお線香の「青雲」のテレビCMである。以前は、森田公一さんの「青雲の歌」が流れていたので、強いインパクトがある。調査によれば、「見たことがある」という人が9割以上という知名度の高い、ブランド力のある商品である。

日本香堂は、その商品力を礎に、お線香の製造・販売でトップを走り続けている薫香業界のリーディングカンパニーである。市場全体で約5割、日用品チャネルでは7割以上のシェアを持つ、名実共に日本一を実現している会社だ。

お線香・ローソク等の仏事関連の商品を手がけながら、お香(インセンス)、ギャレ(セラミックポプリ)サシェ(匂い袋)など、ホームフレグランス製品、香りのインテリア製品など、幅広い商品を提供している。売り上げは138億円(3月期)。

老舗といえる同社だが、歴史の古い薫香業界にあってはむしろ後発に属するという。初期の頃は関東、東日本を基盤に拡大を図りつつ、独自の戦略で業界に新風を吹き込み続けた結果、全国制覇、さらには欧米、アジア、南米にいたる海外進出を果たすまでになった。特に、ニューヨークと香港では、原料仕入れと販売拠点の両面から大きくかかわっている。 かつて仏事関連の商品は仏壇仏具店などの専門チャネルが主流だったが、日本香堂の販路開拓、広告展開という積極政策により、現在のお線香・ローソク市場では日用品チャネル(スーパーマーケットなど)の優勢に傾きつつある。

同社の印象的なのは、業界初のテレビCMを打ち出したことである。暗いイメージにあったお線香の商品ポジショニングを明るく爽やかなイメージのテレビCMで一新したという功績がある。その当時、斬新に映ったテレビCMは、徐々に形を変えながらも、ベースにおいては変わらない戦略をとっている。

お線香ブランド商品の「毎日香」「青雲」のテレビCMは依然続いている。例えば、「青雲」では、“連凧に富士山”の映像と、「青雲の歌」というイメージ資産を30年間守りながら、時代に合わせてディテールの修正・変更を重ね、常に鮮度を失わない王道感の印象付けに成功している。

例えば子どもの頃に上げた連凧を、今度は自分の息子と揚げているという設定に変えている。これはご先祖さまを慕う気持ちを次の世代に語り継ぐという意味も重ねて展開している。「毎日香」のテレビCMでは、故・五代目三遊亭円楽師匠が1967年より40年の長きにわたり務めてきたナレーター役を、一昨年春から名跡を継承した六代目円楽師匠がそのまま引き継ぐこととなり、伝統あるCMの世界観に新たな息吹を吹き込んでいる。

「青雲」「毎日香」の2大ブランドに続くお線香「かたりべ」は、ラベンダー・白梅・さくらなど「自然な香り」をコンセプトにした現代的なブランドであり、比較的若いファン層を持つ。商品誕生 10周年を機にリニューアルされたテレビCMでは、稀代の人形作家・与勇輝氏にオリジナルの制作を依頼した“花の妖精”人形が登場。音楽は世界で活躍する音楽家・城之内ミサ氏。ナレーションは石丸謙二郎氏と、独特な組み合わせで上質なCMに仕上がっている、と好評だ。

12年間続き、応募総数が増え続ける絵画コンクール

同社が展開する「ふるさとのお盆の思い出」絵画コンクールは12年間続く文化事業である。小仲正克社長は「20世紀最後の夏に始めた小学生・中学生向けの絵画コンクールで、『心のふるさと大切に』という当社のアイデンティティをカタチで表したものです。

21世紀を担う子ども達に、お盆や日本各地の行事・お祭りなど、夏休みの楽しい思い出の絵を描いてもらうことで、家族や郷土との絆の大切さを深く知ってほしいという当初の狙いでしたが、逆に私達の方が教わることの多いCSR活動となりました。応募総数も、初年度が約7000点で、本年度(11月最終選考会)が約7万点と12年間で10倍に増え、今では日本有数の作品系コンクールに発展しています」という。

昨年夏には、震災の影響が暗い影を落とす中、子ども達の絵のチカラを借りて少しでも世の中を元気にしたいという想いから、これまでの入賞作品を登場させるテレビCMを制作し全国で放送。また全国紙の一面を使い、同コンクール選考委員長の原田泰治画伯と歌手のさだまさしさんとの対談を通して、「今年のお盆の大切さ」を訴えかけた企業広告を掲載するなど、この文化事業を題材に生かした共感型コミュニケーションにも力が注がれた。少子化が進む中での目覚しい応募数の伸びは、こうした取り組みへの評価の現われと見てとれる。

「現代の子ども達は携帯ゲームばかりしているイメージがありますが、実は家族のことをよく見ているし、観察しています。お祭りや伝統行事を大事に思っている感性も育っているように感じます。この絵画コンクールを通して見えてくることがたくさんあります」と小仲社長は話す。

シニア向けの新規顧客囲い込みの施策や、「母の日」「喪中はがき」をフックとした施策の詳細については「販促会議2012年3月号」本誌をご覧ください。

取材・文 上妻英夫(KIプレス)/経済ジャーナリスト


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