大学生の「就活」に役立つ10の戦略広報

モーメンタムビルディング

AKBとローカルアイドルの事例を用いて、3つのポイントをご紹介しました。
(第六回 AKB48とローカルアイドルブームにみる「モーメンタム・ビルディング」とは)

カスタマー・インサイト(顧客目線での洞察力)
応募した企業や業界、その企業の人事の課題などをどこまで徹底して調べているか。調べた情報からその企業が将来どういう方向に進んでいくのか読み取っているか。たったこれだけのことを怠る人も多いようです。私はよく、その企業が将来向かっていく方向性について知りたい時に、短期では中途採用の募集ページを、長期では新卒者の採用ページを見ます。企業が採用をかけている分野や職種、表記の仕方を見ると、だいたいその企業の向かって行く方向性がわかるのです。事前研究は就活でなくても必須です。

対抗軸の設定 – 主流(メインストリーム)の研究とリスペクト
企業は自分たちの理想とする学生を採用したいと思う一方で、採用する学生の同質性を避けたいと思う傾向があります。みんながみんな「同じ顔」だと困るのです。そこで、その会社に採用される可能性の高そうな人の人物像を、まず想像してみてください。次に、その人物像の「対抗軸」になるような人(能力的に劣っているわけではないが印象や考え方が全く違う人)をイメージしてみてください。主流の人たちのアンチテーゼとしての「指定席」が実はあることもあります。例えば、学者肌の人が多い企業であれば武闘派(体育会系)の人も採用します。エンタメ職の強い人が多い企業であれば、あえて学者系の人なども採用します。そうしたあえて自分の「居にくい会社」の中では、メインストリームの中に埋もれるよりも自分の個性を「高く売る」チャンスが得られることもよくあります。

自分の「弱み」を活かし、相手の「強み」に勝る(SWOT分析の「ウラ技」)
自分の「弱点」をあまり分析しない人がいます。自分の長所を考えるのと同じくらい、就活では自分の「短所」について考えてみてください。ただその「短所」を考えて落ち込むのではなく、その「短所」が「長所」になるような社会や企業の状況はいったいどういう状況の時か、「自分の短所の活かし方」を考えてみてください。今自分が入りたいと思っている企業で、自分の短所が長所に変わるような状況になるのは例えばどういう時ですか? 「その時」に自分が能力を発揮できるのであれば、「その時」というのは、その企業にとってもビジネスチャンスです。そこまでじっくり考えた上で自分の「弱み」をあえて武器に、「ストーリー」や「メッセージ」をもう一度考えてみてください。

First Choice

(第七回 紅白歌合戦といえばこの方(!?)小林幸子の豪華衣装を戦略広報の視点で考える。)
「新卒」全員の中でナンバー1になるのは難しいかもしれません。「男性」あるいは「女性」の中でナンバー1になるのはどうでしょうか?切り口をかえて「マジメさ」「面白さ」「オタクさ」「田舎出身」「素朴さ」とにかくどの切り口であれば、「●●と言えば●●くん(さん)」と自分がナンバー1として多くの人に記憶されますか?自分自身のことを徹底的に「微分」してみてください。「オンリー1」ではなく「ナンバー1」になる「何か」に気づいてください。

ステルスマーケティング

(第八回 「ステルスマーケティング」と「マーケティング」の25の境界線を戦略広報の視点で考える)
「宣伝と思われないように宣伝する」という広い意味での「ステルスマーケティング」でしたら「インフルエンサー・マーケティング」なども含まれることになります。「インフルエンサー・マーケティング」とは、商品やブランドがターゲットとするセグメント内で、周囲に影響を与える人にまず一次的にアプローチをし、そのオピニオンリーダーや専門家を介して商品に対する好意的なメッセージが周辺に広がっていくことを目的に行われます。ことし老舗の出版社が「縁故採用のみ」を宣言したことで物議を醸しましたが、「縁故採用」というのも広い意味での「インフルエンサー・マーケティング」かもしれません。「影響力のある人とのリレーションによって自分の売り込む」のです。

二次使用

(第九回 ジャニーズ事務所と吉本興業の「二次使用」について戦略広報の視点で考える)
私はこのコラムで毎回最後の方に、歴史上の人物などの名言や、著名人の言葉を引用(二次使用)しています。その目的はコラムでの自分の意見を裏付けて信憑性を高めるためです。(こんな偉い人も私なんかと同じようなことを違う切り口で言っているのですよ)と自分の主張との相乗効果で、読者を説得させる狙いがあります。また同じ形式でコラムを構成する人は少ないので、他の方との差別化にもなりますし、ある種の「マンネリ」(型)によって、そういえばあのコラムでは・・・と想起率を高めたりもします。面接やエントリーシートでも上手く応用してみてください。

社会貢献

(第十回 「社会貢献」を戦略広報の視点で”あえて”考える。)
「お金で買えるもの」は売りにくい時代です。「本物」だけが選ばれていく時代です。自分にとって何が本物(本質)なのか。「お金儲けをして豊かな生活をしたい」のか「みんなに尊敬されて世の中に名を残したい」のか「社内で出世して多くの部下を持ち多くの権限を行使したい」のか。あるいは「あまり目立たずに過ごしたいのか」「自分のするべき仕事をきっちりとこなしていきたい」のか。千差万別であっていいと思います。就職の目的は色々あるのかもしれません。あまりに発言がぶれる面接者に対して、ぶっちゃけ「あなたはどうなりたいの?」という事を聞きたくなることがあります。就活で忙しい最中かもしれませんが自分自身で一度冷静に考えてみる(棚卸し)と良いと思います。

自分の本音をそのまま企業にぶつけたところでどうにもならないかもしれませんし、ヤボなだけかもしれません。けれど、自分が結局「どうなりたいのか?」の先にあるものが、「社会にとっても良い方向」に向かっていくといいですね。自分が向かっていきたい方向が大きな時代の潮流(モーメンタム)と一体になっていくきっかけとなるかもしれません。

私より20歳も年上の人には、私の世代の気持ちがよく分からないのと一緒で、私に20年歳も年の離れた今の大学生の気持ちや状況は遠くの国の出来事のようでよくわかりません。もの凄く今は大変な時代なのかもしれませんが、自分の時も自分なりには色々と大変だったような気もしますし、比べようもありません。だから他人事は他人事として無責任に上から目線で「頑張れ!」としか言いようがないのが正直なところです。

風が当たる幸せ、わかる? (本田美奈子)

最終回は、もっと格調高く、壮大なことを書こうと思っていましたが、いつも下書きせずに一気に書くので、書いているうちに安っぽい「面接マニュアル」みたいになってしまいました。それでも就活中の皆さんの(それ以外の広報担当の方にも)お役に少しでも立てばと思います。

それではみなさま。またこの夏か秋あたりに(コラム連載の依頼があれば)お会いしましょう!

※連載「片岡英彦のMPR(Marketing PR)な人々」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

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片岡 英彦[コミュニケーション・プロデューサー/片岡英彦事務所代表]
片岡 英彦[コミュニケーション・プロデューサー/片岡英彦事務所代表]

1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者として「阪神・淡路大震災」や「オウム事件」の取材を、宣伝プロデューサーとして「電波少年」「伊東家の食卓」「箱根駅伝」等を担当。2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャー。MTVジャパン広報部長を経て、2006年日本マクドナルドマーケティングPR部長。ミクシィのエグゼクティブプロデューサーの後、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援活動の他、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。マガジンハウス/Webダカーポでインタビューコラム「片岡英彦のNGOな人々」を連載中。

片岡 英彦[コミュニケーション・プロデューサー/片岡英彦事務所代表]

1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者として「阪神・淡路大震災」や「オウム事件」の取材を、宣伝プロデューサーとして「電波少年」「伊東家の食卓」「箱根駅伝」等を担当。2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャー。MTVジャパン広報部長を経て、2006年日本マクドナルドマーケティングPR部長。ミクシィのエグゼクティブプロデューサーの後、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援活動の他、フランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。マガジンハウス/Webダカーポでインタビューコラム「片岡英彦のNGOな人々」を連載中。

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