ツイート数と広がりを分析し影響力を実感
――当初の目標は計画通りに達成されましたか。
大森 まずは100万人といいながら、そこから半年くらいの増加ペースでいうと全く足りませんでしたし、今も足りていません。正直なところ、「これ以上計画通りにいかないのであれば、ソーシャルメディアの取り組みもやめようかな」とも考えていました。
――そのような状況の中で、なぜソーシャルメディアへの取り組みを続けられることになったのでしょうか。
大森 きっかけは昨年の夏に実施した人気漫画「ワンピース」とのタイアップイベントでした。イベントは前年も実施し、お客様の満足度が非常に高かったのです。
そこで今回はイベントの良さを効果的に伝えるために、前年のイベント体験者にクチコミの発信源になってもらうことにしました。前年のワンピースイベントについてツイートした人、さらにそのツイートをリツイートした人は合計8800人ほどですが、その8800人のフォロワーを合計すると300万人近くにワンピースイベントの情報が発信されていることがわかりました。
次に、昨夏のイベント期間中に「パーク内でツイートしているだろう」と思われるツイートを集め、その人たちがこの最初の8800人のツイートに接触し、何らかの影響を受けたフォロワーかどうかを計測したところ、約4800人が最初の8800人のフォロワーに該当することがわかりました。もちろん必ずしもツイッターの影響だけではなく、テレビCMなどを含めたマーケティング全体の効果だと思いますが、ツイッターの流れを追うと以上のような数値関係が見えてきて、少しではありますがその効果を感じることができました。ちなみにこの夏に実施した「モンスターハンター」とのタイアップイベントも同様の反応が得られました。
――ワンピースやモンスターハンターのようなキャラクター関連のイベントは、コアファンの存在が大きいという要素もあったのでしょうか。
大森 もちろんありました。そこで次にハロウィンとクリスマスのイベントでも同じように調べたら、ハロウィンでは「USJのハロウィンに来てるよ」とか「楽しいよ」という発信者が約1万2000人いました。ワンピースと同様の計測を行うことで、この1万2000人から約350万人に広まって、約4300人がパークに来場しているという数値が明らかになりました。
――アニメとのコラボ企画に限らず、USJ独自のイベントでもツイッターによる効果が見られたんですね。
大森 はい。ワンピースやハロウィンイベントの経験から、ある程度自らユーザー自身の体験の発信から人数や広がり方がわかるようになりました。ビジネスへの成果やつながりがやっと見えてきましたね。つまり、ソーシャルメディアでのコミュニケーションによって、意識変容(パークに行きたい)と態度変容(実来場)までが数値として見えてきたのです。
ソーシャルメディアと来場者数の相関関係をいかにつかむか
――主な来場理由にリアルなクチコミがあると冒頭お話ししていましたが、本格的にソーシャルメディアを取り組み始めてから、数値の変化はありましたか。
大森 結論から言うと、ソーシャルメディアが認知経路に現れる事は未だにほとんどありません。ただし、ソーシャルメディアへの取り組みの影響かどうかは分かりませんが、リアルのクチコミが増えてきていることは感じています。昨年ハロウィンのイベントで、100体以上のゾンビがパーク内を徘徊するということで話題にもなりました。とはいえやはりクチコミの発生はプロダクトの質に依存してしまうので、ソーシャルメディアと来場者数の相関関係はなかなかつかむことが難しいのですが、なんとかそれを数値化して調べられないかと取り組んでいる最中です。
――今後の展望についてお聞かせください。
大森 さきほど申し上げた通り、我々は100万人を目指すと言いながらまだ全然集まっていません。また100万人集まったとしても、USJから100万人にツイートしたり、フェイスブックに投稿してもそんなに広がらないと思います。それよりも、公式アカウントがフォローされていなくても8000人にパーク体験してもらい、それを投稿してもらえば300万もの人たちに広がる。また我々が企業の情報として語るよりも、ユーザー自ら語ってもらった方が意識変容にも態度変容にも強い影響力があるだろう、ということが見えてきました。
先日、フェイスブックのリサーチチームが発表していた「Weak Tie」(弱いつながり)が鍵となると考えています。公式アカウントでつながるある程度コアなファンとのコミュニケーションと、公式アカウントではつながらないけどもパーク体験をソーシャルで語ってくれる大多数の人たち。後者を活用することがビジネスへの効果は出やすいと考えています。
とはいえ、もしアメリカのコカ・コーラさんやスターバックスさんのように2000万、3000万人単位でフェイスブックのファンにいたらそれはすごいことですし、もちろん100万人でもすごいことになる可能性もあるのでやはり規模の獲得は今も重視しています。それに加えて公式アカウントにフォローしている人や「いいね!」登録している人が、ソーシャルメディアで我々とコミュニケーションを続けた半年間でどのように変わっているかどうかについても調査しています。
ソーシャルメディアで接触しうる人の事前と事後の変化の調査と、ソーシャルメディアでつながっている人とつながっていない人の内と外の調査を同時に進めているので、公式アカウントのファン数も引き続き増やしながら、それ以外の人をいかに活性化するかという両輪でやっていくのが今後の課題ですね。
――インタビュー雑感
ユー・エス・ジェイさんは施策を行う前に、お客様の声を傾聴し、そこから仮説を立て、実施、効果検証をするという流れを確立できたからこそ、現在、効果的にソーシャルメディアを活用できているということをお話の中から感じました。流行っているからといって、積極的にソーシャルメディアを利用するだけではなく、都度検証を行い、時には一度立ち止まって実施の継続・撤退を検討するということも重要であるということをあらためて認識しました。こういった一連のプロセスは、現在ソーシャルメディアを活用している企業にとってもよい模範例となるのではないでしょうか。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当:AMNインターン 青山学院大学経営学部 芳賀ゼミ 糸井佑樹、人見彩菜
次回(3月12日)はパナソニックです。
高柳 慶太郎「ソーシャルメディア活用 先進企業に聞く」バックナンバー
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