昨年の東日本大震災では、広範な地域で多くの帰宅困難者が発生し、東京都内でも大きな混乱が生じた。これを受けて、今年2月3日、東京都では、埼玉県・千代田区・新宿区・豊島区と合同で、1万人以上が参加し、首都直下型大地震を想定した大規模な帰宅困難者対策訓練を実施した。
訓練の主な内容は、駅構内や東京都防災センター周辺の大規模集客施設での利用者の保護、一時滞在施設への誘導、エリアワンセグ放送や災害無線、SNS(ツイッターやフェイスブック)などの情報ツールを活用した安否確認や情報の提供、徒歩帰宅への支援など。民間企業の従業員による、帰宅抑制・安否確認、商業施設や鉄道事業者による利用者の一時保護を行った。
また、新宿区歌舞伎町の都健康プラザ・ハイジアでは、大規模災害時に多数の重軽傷者が発生した場合の対応「トリアージ」の訓練を実施。一般市民および、隣接する大久保病院の医師や看護師ら約10人が参加して本格的な訓練を行った。
遠方への帰宅困難者が予想される東京駅
「ケガをしているお客さまはいらっしゃいませんか」
地震発生想定時刻の午前10時が過ぎ、東京駅丸の内口構内の地下スペースに駅員の声が響いた。間もなく、床面の広大なスペースに青いシートが敷かれていく。
「お客さまが本部一時避難場所に向かっているとの情報。本部隊員は準備願います。対策本部に集合せよ」
10時10分頃、構内の各所から帰宅困難を想定した訓練参加者が集まってきた。一列になって飲料水や防寒シートなどの救援物資を受け取り、青いシートの上に整然と並んで腰掛けた。屋内ながら底冷えのする寒さ。「エマージェンシーシート」と呼ばれる銀色の防寒シートにくるまって待つ参加者の姿が多く見られた。
東京駅構内での訓練は、JR東日本の主導で進められた。400人に及ぶ訓練参加者は、JR東日本とグループ会社のスタッフを動員した。
「現在このエリアの安全は確認されています。安心してお休みください」「具合の悪いお客さまはいらっしゃいませんでしょうか」
駅員からは地震や交通機関の状況のほか、避難者の不安を取り除くための情報提供やトイレへの誘導などが行われた。有事の際は、この場で数日間滞在することも想定されている。駅構内の飲食店から食料を供給するなどの対応が取られる予定だ。
JR東日本は、「駅のどんな場所を提供できるかについては議論を重ねた。徹底すべきは避難場所の安全の確保。また備蓄の提供やトイレの問題など、細かく計画を立てて訓練に臨んだ」(澤本尚志・サービス品質改革部長)とコメントした。東京駅での備蓄は3000人分程度を想定しているという。駅の付近では、オフィスビルでの訓練として、丸の内の三菱商事が協力した。
東京駅周辺地区の参加者は駅やオフィスなどで待機したのち、避難場所である日比谷公園に徒歩で移動した。公園には携帯電話など通信各社が安否確認などの情報提供サービスを紹介するブースを設けたほか、災害用自販機や起震車の体験などが行われた。
東京駅や東京国際フォーラムで一時待機したのち、日比谷公園へ移動する参加者。災害時には高齢者や子ども、負傷者を含む数千人~数万人単位での移動になることが予想される。
鉄道の代替輸送手段として、バスや船での輸送も試みた。千葉港へは、有明埠頭(江東区)から150人乗船可能な海上自衛隊の特務艦で輸送。埠頭までは都心の東京国際フォーラム(千代田区)からバスを走らせた。横浜や横須賀に向けても艦艇が動員されたほか、埼玉方面には明石町防災船着場(中央区)から岩淵リバーステーション(北区)まで隅田川をさかのぼる水上バスを運行。このほか在日米陸海軍の艦艇を使った訓練も行われた。
大規模な直下型地震が都心を襲った場合、人命救助や負傷者の救護を優先するため、帰宅困難者対策は鉄道各社や企業らによる協力が不可欠となる。東京都の災害対策本部副本部長を務める佐藤広副知事は、日比谷公園に集まった参加者を前に「(今回の訓練が)都民一人ひとりが帰宅困難という問題を真剣に考えるきっかけになれば」と強調した。
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