米国の流通小売業やメーカーのプロモーション・カレンダー、例えば11月の欄を見ると「ブラック・フライデー」「サイバー・ウィーク」と言ったwordが目に入ります。日本人には馴染みがなく「黒い金曜日?」「えっサイバーな1週間?なになに?」なんて思わず反応してしまいます。このwordの意味と展開については、このコラムの最後に紹介したいと思います。
今回のテーマは、日米の流通小売業における販促テーマについてハカります。
そう言えば、このコラムのヘッダーのデザインを最初に見せてもらった際に、ショッピング・カートとそのベース(地)のメジャーを表した罫線に気づき、ハカる(計る・図る・測る・量る…)ことの意図やこだわりをデザイナーさんが表現してくれた事に、「おおっ」と嬉しくなりました。皆さんのコラムのテーマに合わせたひとつひとつのコラム・ヘッダーのデザイン、全てポイントを突いていて、とてもおもしろいです。
さて、ここから「本題」です。日本同様に、生活催事を捉えた売場づくりやシーズナル商品、様々なイベントが催されます。特に、米国では秋から年末までの季節はBack to school(日本でも東大などの入試時期が話題になっていますが、米国では9月が新学期。新学期商戦は夏場から9月の下旬まで続きます)・ハロウィーン・感謝祭(サンクス・ギビングデー)・クリスマス迄は切れ目のない展開が続きます。
Back to schoolは、クリスマス商戦に続く繁忙期とされています。日本の新入学や新学期は、ランドセルにはじまりデスクやステーショナリーが商品の中心ですが、米国ではお祝いのための「ギフトカード」(日本円にすると500円から5000円位で、デザインの種類がとても豊富)が大きな市場になっています。このギフトカード、クリスマス商戦では実に2兆5000億円近い市場があります。
米国の流通小売業のプロモーションの最近の傾向
プロモーションの展開を見ると消費者による「情報の発信型コンテンツ」が目につきます。
twitterやFacebookの活用もありますが、新学期に向けて新商品や売れ筋商品を、実際に消費者に試してもらい「You Tube」などを使って、その実感を利用シーンと合わせて伝えたり、日本で言うカリスマモデル(または読者モデル)によりウェブサイトや情報誌で紹介したり。また、商品やサービスを「試してもらう」ことや「紹介してもらう」ことにコンテストやインセンティブとしての景品が用意されています。
日本ではメーカーのサイトでこうした取組みを目にすることがありますが、リテール(流通小売業)では、まだあまり見ることがありません。日本のホームページでは無印良品が今年の1~2月「手づくりバレンタイン」の紹介を、また外国の企業ですがイケアのホームページでは「新生活準備/まってろ!新生活!」をテーマにした動画を見ることが出来ました。どちらもイメージ・アップだけでなく、トライアルや来店促進を期待させるものでした(動画を組み込んだサイトは、コンバージョン率が約6倍高いと言うWebコンサルティング会社のデータもあります)。
日本における販促テーマの捉え方は、現在「Insightから訴求するテーマを更に掘り下げてみたり」「ターゲットを従来の人(層)から変える」ことなど「シェア・アップよりも、むしろ新しい価値創造型」を意識したものが目に付きます。シェア・アップより、既存の市場から大きくジャンプさせることで〈新しい売上や機会〉を作ろうとする狙いがそこにはあります。米国ではテーマ設定よりも、サービスやコンテンツなどの情報の配信など〈戦術面における工夫や強化〉が感じられます。
日米ともに今後はオンライン、モバイルを活用した仕組みづくりが一層積極的に行われるのは確かでしょう。日本と米国とでは、スマートフォンの普及率(米国は約36%、日本では約15%)の違いがありますが、米国の小売業のアプリの活用方法などはプランを考える上でとても参考に出来ます。(しかし、このアプリの活用は今米国の小売業・リアルな店舗に大きな問題を与えています。我々日本でもこの事情を把握しておく必要があります。これは、次回のコラムのテーマです)
さて、最後に前述の「ブラック・フライデー」と「サイバー・ウィーク」について。
ブラック・フライデーは、11月第4週の木曜日「感謝祭」の翌日の金曜日を指します。クリスマス商戦の開始日として日付の変わる深夜午前0時に百貨店やショッピングモールなどのゲートや店頭では行列が出来るほどの盛り上がりを見せます。それはちょうど日本のお正月の「百貨店の初売り」の行列に似ています。百貨店などの小売業が黒字になることにちなんで「ブラック・フライデー」 と呼びます。また、もうひとつのサイバー・ウィークは、感謝祭・ブラックフライデーと続いた次の月曜からの週を指します。店頭での買い物が一段落した後の、オンラインによるクリスマス商戦のはじまりを示します。
今年2011年のサイバー・ウィークは過去最高の約60億ドルの売上げを示す結果でしたが、その翌週に大きく売上が下がるなど、消費の前倒しが見られました。スマートフォンの普及やネットショッピングなどが増えている日本にも、近い将来は「日本版/サイバー・ウィーク」が登場するのでしょうか?
次回のテーマは、「リアル店舗は、オンライン・ショッピングにおけるショールーム?」深刻な課題です。
倉林武也 「最新米国小売業からプロモーションをハカる」バックナンバー
- 第4回 「えっ、自動販売機で本当に売られているもの?」(2/21)
- 第3回 アロハシャツを着た店員さんと、これぞ!手書きPOP(2/7)
- 第2回 米国流通小売業におけるデジタル・サイネージの現状(1/24)
- 第1回 クーポンのアナログとデジタル(1/10)