2度目の”地域政党ブーム”のゆくえ

~2つの地域政党モデル環境重視か政治改革の手段か~

住沢 博紀 日本女子大学教授

中央政界の統治能力低下で起きた2度目の地域政党ブーム

私の知る限り、日本における地域政党のブームはこれで2度目である。1度目は、熊本県知事の体験から集権国家を批判する細川護煕氏が日本新党を結成した1992年から旧民主党が結成された96年までの時期である。旧民主党は、今では忘れられているが、「地域政党の連合体」という組織論を唱えて発足した。

現在の2度目のブームは、2010年末から、河村たかし名古屋市長と地域政党「減税日本」による市長・知事・市議会トリプル選挙の訴えから始まり、2011年の統一地方選挙を経て、11月橋下徹大阪市長・松井一郎大阪府知事のダブル選挙勝利までの期間である。橋下大阪市長と地域政党「大阪維新の会」は、「大阪都」構想を掲げ、民主党・自民党など国政政党や集権国家体制と対峙する姿勢を見せている。

2度のブームに共通しているのは、中央政界と官僚組織の統治能力が低下し、混乱していることである。そのため国民の政治・官僚不信は頂点に達し、これまでとは異なる政治・政党モデルを求めている。その受け皿の1つが地域政党である。しかし細川日本新党の後継者、野田佳彦首相はその後の累積赤字の後始末に苦しんでいる。2度目のブームの行方はどうなるのか。

政治的意図が異なるローカル政党とリージョナル政党

2度目の地域政党ブームの今後を考えるうえで、まず、概念整理をしておきたい。ローカル(地方)とリージョナル(地域)を区別することがカギとなる。ローカルとはセンター(中央)に対応することばであり、生活者・市民の日常の生活空間である。これに対して、リージョン(地域)とは、これまでの国民国家の統治構造に対して、独自の自立したリージョン(地域)形成を主張する。それは少数派民族の自治や連邦制の提起のように穏やかな場合もあれば、分離・独立運動のように国民国家の解体を主張する場合まである。

海外の例として、スコットランド国民党とイタリアの「北部同盟」を挙げておこう。前者は1934年と設立は古いが、「イギリス連合王国の脱集権化」のなかで、1999年から大きな自治権を持つスコットランド議会の選挙が行われ、2007年から政権を担っている。

イタリア「北部同盟」の場合は、現在の日本と似ている。冷戦終結後、自民党・社会党にあたるイタリアの旧体制の政権政党が解体した。豊かな北部が遅れた南部を支援するというイタリアの「地域間再分配政策」は、政治腐敗の温床でもあった。これを批判する北部の諸都市に地域政党ができ、それが「南部との分離」を唱える「北部同盟」として一大政治勢力となった。同じころ、メディア王であり経営者であるシルヴィオ・ベルルスコーニ氏が自らの党を創り政界に進出し、「北部同盟」の支援を受け1994年から2011年の間に、延べ9年、3回の中道右派政権を樹立した。

日本のリージョナルな地域政党としては、「国際正義に基づく琉球国の建設」を結党時に掲げた沖縄社会大衆党(1950~)が挙げられる。

市民参加型と政界再編型 日本の2つの地域政党モデル

さて、今の日本でテーマになっているのは、自治区・分離をめざすリージョナルな地域政党ではない。市民・生活者の参加型デモクラシーを掲げるローカルパーティとしての地域政党と、集権国家の分権化・税の自主権や道州制を唱える知事・政令指定都市市長らの地域政党の結成が主要な焦点となる。後者は政界再編も視野に入れている。そこで、市民社会(市民参加)と政府(行政機構)という、ガバナンス(統治)のありかたを横軸に、自治体(地域)と国民国家という領域を縦軸に、デモクラシー論として地域政党を図式化したものが図の「3つの民主主義」である。

3つの民主主義

第1の「市民参加モデル」が本来のローカルパーティの領域であり、無限の可能性を秘めている。基礎自治体は本来の市民自治・住民自治の場であり、現在の行政、首長、議会という役所風に機構化されたガバナンス(統治)に多くの人々は満足していない。ここでは、ローカルパーティとは、「市民が主役の時代の社会と政治の新しい関係を構築することであり、日常生活の場でのデモクラシーの多様なありかた」として定義したい。

こうした地域政党の代表例は、職業としての政治家を否定し「代理人運動」を展開する東京と神奈川の生活者ネットワーク運動である。「生活クラブ生協」を母体とした女性たちは、食の安全や福祉・環境をテーマとする生活の場での政策づくりを行った。現在、「市民ネットワーク千葉」は県会議員2人と15人の市会議員、「神奈川ネットワーク運動」はそれぞれ1人と23人、「東京生活者ネットワーク」は、都議3人、区議19人、市議32人を有し、北海道、埼玉、長野、福岡とともに「全国市民ネットワーク」を組織している。この運動は、議員報酬や政務調査費をある種の「市民資産」として合法的かつ有効に活用しているといえる。

もう1つのグループは、1990年代からの環境派議員による地域政党づくりである。1999年、統一地方選挙に向け「虹と緑の500人リスト運動」に発展し、2002年には119人の地方議員の会員がいた。制度圏(議会)と運動圏(エコロジー運動)の媒介者として位置付け、だれもが政策形成に参加できる「オープンテキスト」などユニークな手法を提起した。現在では日本版「緑の党」結成に向け、「緑のテーブル」に参加している。

地域政党は研究所などシンクタンク組織でもいいし、環境保護のNPOや福祉法人が母体でもよい。あるいは株式会社が地域経済の振興を唱え地域政党を結成してもかまわない。職のないポスト博士課程の学生が地域政党を立ち上げることも、その政策能力からいって有用である。

ドイツ緑の党も、院生が設立する多くの「環境研究所」が支えた。どの場合も公共性が確保されることが担保となる。

しかし現実の地方議会に目を向ける時、もう一つの重要なテーマが存在する。地方議会内の会派である。多くの議会では既成政党の会派と、地域の会派(多くは保守系無所属)が混在している。前者は国政政党の末端選挙を担い、後者は議長選出をめぐる派閥抗争に明け暮れることが多い。これらが地域政党として自立できれば、地域の市民にとっても政策内容で判断でき、地元の利益にもなる。

首長による地域政党と地域エネルギー政策の可能性

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2月11、12日に都内で開かれた「みどりの未来第4回総会」で、7月に「緑の党」を結成することが正式に決まった。また2013年7月の参院選に向けた基本方針が確認された。

残された課題とは、知事や政令指定都市の首長による地域政党結成であり、もう1つは地域政党と環境政策の関係である。これにも2つの方向がある。ローカルパーティの視点から、望ましいかたちとして期待されるのは、「地域政党 対話の会」(対話でつなごう滋賀の会)の手法である。これは政党活動というよりも、会が推薦する政治家との対話を通して候補者のマニフェスト形成や市民政治を実現しようとする試みである。嘉田由紀子滋賀県知事や越直美大津市長など4人の首長、9人の県会議員、13人の市町議員がいる。嘉田知事の本来のテーマでもあるが、ここでは琵琶湖環境保全など、生活と環境政策が大きな政策課題となっている。

もう1つは、橋下大阪市長、大村愛知県知事など、東京などもふくめ大都市地域政党の連合体を立ち上げ、現在の官僚集権国家や民主党政権を解体・再編しようとする動きである。イタリアのベルルスコーニ政権や北部同盟の経験からみても、政府や中央政界が混乱している時代には、かなりの成果をあげるだろう。

しかし1000兆円に達する財政赤字が累積するいまの日本に、イタリア同様に地域政党の実験を行っている余裕はない。「地域主権」の論点では、むしろ、参議院を政党政治の議会から地域代表の議会に変えることが望ましい。憲法問題を回避するために、都道府県別に議席数を割り当て、それぞれの1県1区の選挙の多数派(政党リストあるいは連立リスト)が議席を総取りして代表を送る選挙制度にすれば、参議院は地域代表議会となる。

残された課題は、環境政策と地域政党の関係である。食の問題やライフスタイルをめぐる問題など、生活に密着した政策課題を重視する地域政党の行方は、環境政策と密接に結びついている。生活者ネットも、「虹と緑の500人リスト」も、あるいは新興の「地域政党いわて」なども、エコロジー問題や地域生活の復興を旗印にしている。

一方、脱原発政策やエネルギー政策は、一国の基盤となる政策であり、国民的な合意と長期的な転換計画が必要とされる。ドイツ緑の党も、地域の政党から出発して全国政党に発展した。日本でもエネルギー政策の転換のためには、地域政党ではなく、民主党や自民党の政策転換、もしくはそれをリードする全国規模の「緑の勢力」が必要だろう。原発所在地の知事も、受身の姿勢や単なる拒否ではなく、首長による地域政党としての地域エネルギー(転換)政策を提起できれば、その意義は大きい。

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住沢 博紀(すみざわ・ひろき)日本女子大学教授
1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、ゲーテ大学で博士号取得。政治学専攻。1990年から日本女子大学専任講師を経て現在に至る。2000年フランクフルト社会研究所客員研究員。研究テーマはヨーロッパ福祉国家論、地域政党論、生活公共論。著書に『自治体議員の新しいアイデンティティ』(イマジン出版、2002)、編著に『グローバル化と政治のイノベーション』(ミネルヴァ書房、2004)など。

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