米国の最近の販促手法について捉える時に、まずは、スマートフォンの普及率を日本の様子と比べてみる必要があります。環境の違いをハカり、その上でこれからの日本のプロモーションでの活用や可能性について考えたいと思います。
米国では約36%と言われるスマートフォンの普及率、日本では約15%程度 。そして、その使用層の3~4割は20代です。Facebookの平均利用時間(1日あたり)を見ると、世界の約352分(10ヵ国平均、随分長時間の気がしますが)に対して、日本は約49分(Neilsen調べ) グローバルな視点で捉えると、まだまだ日本の数値は低いものの、これから数年で日本での普及率・状況も大きく変わります。販促やキャンペーンにスマートフォンを活用しようと考える際に、まずはこうした背景を知る必要があります。
また、同時に業種や業態における買物環境や商品やサービス面から、スマートフォンを実際に使用している顧客の属性がどうかを捉えます。例えば、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、百貨店、専門ストア、これらの客層(ショッパーとコンシューマ)の違いについて、利用や来店の様子を「時間軸」や「空間軸」でハカることです。今後、日本の店舗においてスマートフォンの使用が増えていくことは確実です。
スマホ+QRコード = ギフト+メッセージ
クーポン王国と呼ばれる米国でも、今クーポンのあり方についてはデジタルとアナログの融合の時期。スマートフォンなどの端末を利用してクーポンを集める人、サンデー・ペーパー・クーポンと呼ばれる大量のクーポンが挟まれた週末のニュース・ペーパーを購入する人など、暮らしと同様にクーポンの入手方法にも2極化が見られます。
米国の流通小売業におけるスマートフォンの活用は、現在クーポンの配信や食品の料理のメニューレシピ、お買い得情報に関する配信が多いです。
また、今回紹介するプロモーションの様な生活歳時(主にはギフト・オケージョン)への活用として「クリスマスのギフト訴求」なども見られます。これは、大手デパート・チェーンの「JCPenney」によるQRコードを活用したクリスマス向けのキャンペーン“Santa Tag”の様子です。まずは、クリスマスプレゼントを購入した際にQRコード付きのタグが手渡されます(写真①)。
スマートフォンや携帯電話でQRコードを読み込み、自分の電話番号を入力して伝えたいメッセージを吹き込みます。音声メッセージは60秒まで録音が可能。この様にQRコードをシールとして貼り付け、プレゼントを相手に渡すと、もらった相手はQRコードを読み込むことでメッセージを再生することが出来ます。(写真②) 音声メッセージを再生したのち、プレゼントをくれた相手に「Thank you!」の気持ちを伝えるメッセージを送ることが可能で、録音したメッセージをFacebookやTwitterで共有で出来ます。(パーソナルなメッセージの場合、ソーシャルメディアで共有したい人はあまりないとは思いますが、一応対応している、と言ったことでしょうか) この「Santa Tag」は、クリスマス向けのキャンペーン、「Who’s your Santa!」の一環として実施されており、11月後半にはFacebookアプリを活用したゲームも展開、売場でも立体ディスプレイ、POPによる演出がされていました。仕組みは単純で簡単に出来そうですが、プレゼントと一緒にメッセージを伝える、というQRコードの使い方がポイントです。
英国の「駅」ではARを活用して
米国の小売業ではありませんが、ARの機能を活かしたユニークな<ケース・スタディ>があります。
英国のヴィクトリア駅を使用したLynx(日本ではAxe)のプロモーション Lynx Excite Angel Ambush London Victoria ですが、これは駅と言う空間をストア(リアル店舗)に置き換えてみるとプロモーションの「新しい発想のヒント」になります。海外の事例は、こうした駅を舞台にしたユニークなプロモーションが多いです。コラム第2回で取り上げたスーパーのTESCOの地下鉄の駅の壁面を売場の棚に見立てた「新規の会員獲得プロモーション」もそうでした。展開コンセプトは、“お店がお客さんのいるところに行こう。“でした。
今回の場所は、ヴィクトリア駅のコンコース。そこには1枚の「LynxのパッケージとLOOK UP」と描かれたフロアシート(マーカー)が敷かれています。LOOK UPの視線の先には駅構内の壁面に取り付けられたスクリーンがあり自分の姿が写っています。そこに間もなく「美しい天使!」がストンと降りてきます。
これはAR技術を使用しています。スクリーンを目にした多くの通行客は足を止め、暫く「そこにはいない天使」と「そこにいるリアルな人物」のやり取りに注目をします。
リアル店舗への来店促進について
前回の第6回コラムでは、「オンライン・ショッピングによる課題として、リアル店舗のショールーム化」をテーマにしました。
確かに同じ商品の購入を考える際、オンラインでもオフラインでも価格やサービスを比べて、より良い条件の元で商品を選んだり購入することはこれからも続くことでしょう。
でも、そのオンラインによる機能をオフラインの利用に工夫してみたり、今回の様なARの使い方を買物環境やストアに活かせたら、今とはまた違う、面白さや新しい発見・経験が出来て「リアル店舗に行きたくなる気持ち」がつくれそうな気がします。
次回のテーマは、米国の買物文化に触れる「Buy one Get one Free の日本のプロモーションへの活用」
倉林武也 「最新米国小売業からプロモーションをハカる」バックナンバー
- 第5回「日米における流通小売業の販促テーマの捉え方ブラック・フライデー?」(3/6)
- 第4回 「えっ、自動販売機で本当に売られているもの?」(2/21)
- 第3回 アロハシャツを着た店員さんと、これぞ!手書きPOP(2/7)
- 第2回 米国流通小売業におけるデジタル・サイネージの現状(1/24)
- 第1回 クーポンのアナログとデジタル(1/10)