CSR・広報新任者への今後の課題と解決へのキーポイント

オールニッポンの視点から世界へ通じる国や企業の立ち位置を考える

最近日本は、東日本大震災や原発問題、市場を代表する上場企業の不祥事に直面して、国や企業の社会的責任について明確な対応ができないまま、迷路を彷徨っているかのようである。

政府が進める消費税増額、自治体における瓦礫の引受け可否、食品業界や消費者に関心の高いセシウム新基準の設定など、ソフトランディングを考慮しすぎて議論すべき各ステークホルダーのデメリット分野に対する説明が十分になされていないことが散見される。福島原発事故でも、民間事故調査検証委員会の報告書でその点が色濃く記載されていた。

スピードが要求される課題こそ、説明責任を果たすべきだが、ことを急ぎすぎて「現時点で考えられうる最善の方法」とのみ説明している事例が多いことに驚かされる。その多くはどのステークホルダーの視点からもデメリットがあり、それぞれが少しずつ我慢しなければならない点があるにも関わらず、それを議論されることを恐れて、「最善策」というここちよい言葉で一点突破しようとしていることに無理がある。これが国の問題であれば日本というブランドが、企業であれば信用が喪失する。

現在の日本はブランドが低迷し、日本の良い点が多くあるにもかかわらず、本来の力を発揮できないで状態にある。今、日本が必要なのは単に一企業の優れた能力ではなく、オールニッポンとして企業が日本再生に何を支援できるかの視点を持つことである。

グローバルな視点で企業の社会的責任を果たす

ISO26000「社会的責任」は、グローバルな視点から、原則として(1)説明責任、(2)透明性、(3)倫理的な行動、(4)ステークホルダーの利害の尊重、(5)法の支配の尊重、(6)国際行動規範の尊重、(7)人権の尊重の7つを明示している。

(1)説明責任
原則:組織は自らが社会及び環境に与える影響に説明責任を担うべきである。

原発事故では連日の記者会見を通じて、政府の決定事項とその結果が同時に報告され、その選択肢を取るに至った背景や社会に与える影響についての事前検討の有無などについて説明されることはほとんどなかった。選択した方法に問題が生じると、その時点で「取るべき最善の方法であった」とし、その後の対応については「慎重に検討した上で、善処する」として、予見されるリスクやその最悪の事態への影響を説明しないで先送りする方法が取られたことは残念である。ステークホルダーに議論の余地を奪ってしまった開示方法と疑われても仕方がない状況であった。

「説明責任」の重要な点は、決定や行動の結果どのような影響・リスクがどのステークホルダーに対して発生するかを説明することを意味し、その選択肢を決定するに至った背景や理由を明示することである。このプロセスは、全てのステークホルダーに満足される決定を選択することが難しい危機的事態への対応に不可欠である。

(2)透明性
原則:組織は、社会及び環境に影響を与える決定及び活動に関して、透明性を保つべきである。

企業は、社会及び環境に対する既知の影響及び起こりうる影響を含めて、決定及び活動について、明確、正確かつ完全な方法により、適切かつ十分な程度まで情報を開示すべきである。この情報は事実に基づき、重大な影響を受けた、あるいは受けるおそれのある人々にただちに提供される必要があり、彼らが直接入手、理解できるように準備されなければならない。

これまで行われてきたリスクコミュニケーションの現場では、このプロセスが最も欠落していた。マジョリティのための透明性であり、マイノリティへの配慮が欠けていたり、重要な情報が提供されていない事例が散見されている。

(3)倫理的な行動
原則:組織はどのようなときにも倫理的に行動すべきである。

企業の行動は、正直、公平、誠実という倫理観に基づいているべきである。この3つの倫理観は、あらゆるステークホルダーの利害のために努力するという関与の表明であり、どこに行動の焦点をあてるかについてはその目的や優先順位、他への影響や配慮を含めて倫理的な基準に沿ったものであるべきである。

企業自らの利潤や限定的な視野からの判断にとらわれず、オールジャパンの一員として、日本再生に貢献するという考え方はこの発想から生まれるものである。

(4)ステークホルダーの利害の尊重
原則:組織はステークホルダーの利害を尊重し、よく考慮し、対応すべきである。

企業の活動目的は、企業所有者、顧客又は構成員の利害に限定されやすいが、その他の個人又は組織も、権利、主張又は特定の利害を有することがあり、この点を考慮すべきである。この視点が生まれなければ、マジョリティへの権利の集中が発生し、利益を持つ側と持たない側とが選別され、不誠実な対応と評価されて、ソフトランディングは望めない。また、課題の抽出も不完全で、問題の先送りが継続されるというデメリットも付随する。

(5)法の支配の尊重
原則:組織は、法の支配を尊重することが義務であると認めるべきである。

法の支配とは、法の優位、特に、いかなる個人も組織も法を超越することなく、政府も法に従わなければならないという考え方である。法の支配は、専制的な権力の行使の対局に位置しており、法令及び規制が成文化され、周知された状況下で予め定められた手続きに基づき正しく執行されていることが暗黙の前提となっている。

企業はこの原則に従い、あらゆる関連法令及び規制を遵守するだけでなく、業界ルールやそれが適法であると推認されうる高度な蓋然性に基づく判断基準に沿って執行されることが求められている。同時にその遵守態勢が適切に運用されていることを確認するための手段を講じることも含まれている。

(6)国際行動規範の尊重
原則:組織は、法の支配の尊重という原則に従うと同時に、国際行動規範も尊重すべきである。

企業は、国内の法又はその施行によって環境又は社会を守るための最低限の保護手段が取られていない国々に配慮し、また国際行動規範と著しく対立する国々に対しては、国際行動規範を最大限尊重するよう十分努力すべきである。企業の行動が対立する国々に対して重大な結果を誘引すると考えられる場合には、その法的管轄内における活動及び関係の性質を見直すなどの対応を検討すべきである。また、同時に対立関係を解決するための努力として関連組織及び関連当局に影響を及ぼすための合法的な機会又は経路を探すことに注力すべきである。企業は反社会的勢力に加担する組織はもちろん、国際行動規範を守れない他の組織の活動に共謀することを回避しなければならない。

(7)人権の尊重
原則:組織は人権を尊重し、その重要性及び普遍性の両方を認識すべきである。

企業は、国際人権章典に規定されている権利を尊重し促進するとともに、これらの権利が普遍的であることを確認し、あらゆる国、文化、状況においても不可分に適用されることを認めるべきである。特に一部の人権が保護されていない状況では、人権を尊重するための措置をただちに取り、このような状況を意図的に維持することで得られるメリットを求めて悪用してはならない。

社会的責任の認識と社会的影響に関与しているという自覚がキーポイント

企業が行う決定や活動の影響によって誘引される課題を特定し、持続可能な状況を維持するためには、課題への対応が不可欠である。課題への対応には「誰が」という実行者だけでなく「誰に」というステークホルダーの存在価値への認識が不可欠であり、その影響や関与度合い、相互理解、共生など問題解決のための配慮や対応(ステークホルダーエンゲージメント)が求められる。このステークホルダーエンゲージメントは社会的責任を企業が適切に行うためのキーポイントであるが、ステークホルダーが社会の一部でありながら、社会の期待と相反する利害を有する場合もあり、何を課題の解決策として優先するかの決定が、企業の重要な評価となる事例も最近では生じている。常に社会的責任の認識と自ら行う活動がどのような社会的影響を与えているのかを自覚することが、適切なCSR活動の運用において重要であることを確認しておきたい。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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