以前このコラムでも海外の販促でよく見られる「Buy one Get one Free !」についての記事がありました(世界を旅するコラムニストの太田英基さんや、危機管理コンサルタント白井邦芳さんによる記事です。世界中の異なる文化で得られる体験も、危機管理として人命に関わる視点のどちらも大変興味深い内容として拝見しました)。「Buy one Get one Free ! 」日本語にすると「1個買うと、もう1つ付いてくる!」そう言った意味です。
私もこの表示を米国のスーパーや専門店の売場で目にするたびに「同じものがもらえても、そんなには要らない」「その分、値段を割り引いてくれないかなぁ」そんな気持ちでレジでお金を払ったものです。たぶん、大半の日本人の買い物客は同じ様な感想を抱くでしょう。そこで、今回この「Buy one Get one Free!」をあらためてハカってみることにしました。
プライス・プロテクションについて
なぜ、この様な売り方をするのか?まずは、米国の流通小売業で働く人たち(バイヤーや売場スタッフ)に実際に聞いてみました。ひとつの理由は、商品を値下げして販売しようとすると、それ以前にその商品を値下げ前の値段で購入していたお客さんに損害を与えてしまうことから、値引きの変わりに「同じ商品をそのまま提供する」ことで、お客さんとの公平(フェア)な関係を保つと言うこと。いわゆる「プライス・プロテクション」と呼ばれるものです。
日本の場合は、流通小売業やメーカーの様々な努力や交渉の中で価格が決められていることを考えると、これは複雑な気持ちになります。「何を、誰の立場で最優先して捉えるか?」を考えさせられます。
大量に仕入れる商品
もうひとつは、お店側が同じ商品の在庫を多く持ちたくないと言うことから。在庫管理に関するコスト削減です。ならば、販売促進の施策として購入の特典として買い物客に商品を提供しようとする考え方です。「ひとつ買ったら、もうひとつ持っていってい下さいね。」商品の大量仕入れが当たり前の米国の小売の事情があります。
以前、大阪の梅田にある百貨店でこんなシーンを見ました。50歳過ぎのおばちゃんが紳士服のネクタイの売場で店員さんに「旦那に高いネクタイ1本買うんやさかい、もう1本サービスしてぇや。こんなに沢山あるんやから」これ本当の話です。確かに、ネクタイは安くはないし、売場には沢山あるし。店員さん困ってました。
割引額の計算
そして3つめは、買物をするお客さんやお店の店員さんには失礼ながら「割引の際の計算が得意ではないから」と言う理由から。確かに30%引きや40%引き等は計算が面倒です。これもコラムニストの太田さんの指摘にありました。
米国のスーパーのレジでは買い物をして、キャッシャーの係の人が合計額を告げてからお金が足りないと分かると、お客さんが、その場で買物をした商品をバスケットから取り出して返すなんて様子を目にします。混雑をしているレジの行列の先頭を見ると時々こんなやり取りが見られます。また、こうしたレジでの清算の様子について「レシートとスマートフォンの関係」については、今後のコラムのテーマで触れたいと思います。レシートが無くなる(スマホの活用によるペーパーレス化)と、誰にどんなメリットが生まれるか?
日本でこの様な手法があまり見られないのは、最初にあげた理由の「店頭の価格の決め方や定価についての違い」があり、「お客さんに対する損害の補償」ではなく「お客さんへの還元としての取組み」があります。
米国のSCやGMSの売場では、こうした 表示をよく見かけます。 右の写真の対象商品はbookです。
本を4冊買うと、5冊目はタダ。
「Buy one Get one Free!」は日本での買物習慣に合わないか?
そう考えていた2011年の年末に「ドミノピザ」がピザの注文促進を目的に、この「BUY1 GET1 FREE!」を行っていました(ドミノピザはもともと米国が本社の会社ですが)。店頭写真の様にのぼり旗でも表示がされていました。宅配ピザのドミノピザの店頭の様子を意識のしたのは初めてです。
定価があり、それを崩さないで売ろうとする商品、値崩れを止めたい商品、これであれば「Buy one Get one Free!」を販売促進の効果として期待出来ると思います。DVDやCD、アパレルのウェアや靴のプロモーションへの応用もそうですね。
このコラムのテーマでもありますが「比べて、そしてハカってみる」に共通することや、矛盾の中からもプロモーションやアイデアの〈次のヒント〉が得られればと思います。日本では、どんな商品やサービスであれば、この「Buy one Get one Free!」が成り立つでしょうか。ここにある(2つの)OneとOneを、それぞれ違う商品や関連する(コラボする)商品に変えてみることもひとつの方法です。
次回のテーマは、米国小売業に見る日本には無いおもしろい商品。スマホを使ったデジタル系商品やローカルな雰囲気いっぱいのユニークな商品について紹介します。
ドミノピザの店頭でも、のぼり旗を使って プロモーションをアピールしていました。
倉林武也 「最新米国小売業からプロモーションをハカる」バックナンバー
- 第7回 「米国でのスマートフォンのプロモーション活用 (1)(4/3)
- 第6回 「リアル店舗は、オンライン・ショッピングにおけるショールーム?」(3/19)
- 第5回 「日米における流通小売業の販促テーマの捉え方ブラック・フライデー?」(3/6)
- 第4回 「えっ、自動販売機で本当に売られているもの?」(2/21)
- 第3回 アロハシャツを着た店員さんと、これぞ!手書きPOP(2/7)
- 第2回 米国流通小売業におけるデジタル・サイネージの現状(1/24)
- 第1回 クーポンのアナログとデジタル(1/10)