八王子バスジャック事件に見る職業現場での暴力
日本でリストラクチャリングと呼ばれた雇用調整が全盛期のとき、タクシーの運転手が狙われ、重傷を負ったり、亡くなった事件が多発した。今月22日に発生した事件の加害者は中学3年の男子生徒で、少年犯罪が引き起こしたバスジャック事件である。動機は依然として判然としないが、行為の直前話した友達との会話の内容からも自分の存在を広く第三者に認識させたい願望から起こしたものではないかと考えられている。
職場内暴力は海外では「Workplace Violence」といい、一般的に認知されている。日本でも家庭内暴力(Domestic Violence)は認知されているが、職場内での暴力はつい最近まで話題にもならなかった。
「Workplace Violence」は、職場で発生するあらゆる肉体的脅威、ハラスメント、威嚇的・脅迫的行為に基づく危機感に由来するものだ。米国では、10年以上前から200万人以上が毎年Workplace Violenceの犠牲者となっており、米国労働省(United States Department of Labor)のOSHA(Occupational Safety & Health Administration)が事態を深刻に見て、各種の規制や防止策を提供している。
2010年には重傷者だけを見ても4547人が、また506人が職場での事件に巻き込まれて亡くなっている。
職場での暴力は、もともと教育現場での児童・生徒同士の問題(School Bullying)が中心であったとされているが、徐々に職場の迫害として発展してきた経緯がある。「職場いじめ」の概念は、攻撃対象に対して、執拗かつネガティブな行動によりダメージを与え、加害者が犠牲者に対して明らかな「いじめ」の認識をラベルづけをし、犠牲者が回避できる権限をもてずに自らを守れない境遇にある状態をいう。言い換えれば、敵対的な意図を持つか、受け手にとって敵意に満ちているとみなされる、繰り返し行われる継続的な攻撃的行動と考えられている。
また、「職場いじめ」の事態は、主に(1)職場上の地位への脅威(公の場で恥をかかせるなど)、(2)個人的な立場への脅威(侮辱する、脅迫するなど)、(3)孤立化(身体的・社会的孤立、情報を伝えないなど)、(4)過剰労働(過度のプレッシャー、不可能な締切日、不必要な中断など)、(5)不安定化(なされるはずの約束の破棄、意味のない課題、責任転嫁など)に分類される。
これらは日本でも昨今話題となっている「社内いじめ」の横行や、パワー・ハラスメント、セクシャル・ハラスメント、モラル・ハラスメントなどの現象に類似する。
しかし、こうした職務報復迫害だけでなく、社会的報復迫害の犠牲者となる事例も同時に深刻化したことがWorkplace Violenceの重大な課題となっている。外部の訪問者や業務委託先のスタッフなどがいきなり銃で乱射したり、化学剤によるテロ事件などを起こして、現場にいる企業の従業員が犠牲者となることも少なくない。
こうした事件の背景には不況による雇用調整や少年犯罪の悪化、個の孤立化などの要因が関与しており、現在の行き詰まった日本の状況を象徴している。
「職業いびり」が個の精神を破壊させる
「職業いびり」という言葉があるが、これらは「Non-sexual Harassment」と訳され、特定の誰かに嫌がらせをしたり、不快にさせたり、社会的に排除したり、悪影響を与えたりすることを意味している。「いびり」と「いじめ」は似て異なるものだが、「いびり」は「いじめ」に対してより陰湿かつ身体的攻撃形態をとることがあり、集団や組織ではなく、特定の1人に対して行われる傾向がある。
こうした「いびり」現象がターゲットとなった個を孤立化させ、犯罪に走らせる。社会的報復としてむき出しにされた敵意が、一般市民や従業員に向けられたり、タクシー運転手やバスジャックに発展する。米国では一般的になりつつあるスクールジャックも日本でいつ始まるかわからない。
自動車を使って群衆へ突っ込む狂気や刃物を使ってきりかかる通り魔事件も国内で徐々に発生している。モラル・ハラスメントなどに代表される情動的虐待(Emotional Abuse)は、服従を確実にするために意図的に相手を傷つけ、1人あるいはそれ以上の人々が他者に対して行う敵意に満ちた言葉や非言語的行動で、身体的接触を伴わない反面、精神的な影響が強いとされる。
こうした脅威が犠牲者の心を蝕み、狂気を生み出していく。知らない人から事務所にガソリンをまかれ放火される、店舗内でナイフをふりかざした人が無差別に従業員やお客様を襲う、などの職業現場での暴力や脅威が新たなリスクとして確実に発生しつつある。
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