アプリは「お客さまとの会話のきっかけ」
――ツイッターやフェイスブックといった外部サービスだけでなく、自社でもさまざまな施策を手がけておられますね。
川名 ソーシャルメディアも大事ですが、一番大事なのはその先にあるオウンドメディアへいかにして来てもらえるかだと考えていますので、オウンドメディアの充実も積極的に行っています。
2011年8月に立ち上げた「my MUJI」は、無印良品のファンでいてくれる方々が好きな商品、欲しい商品を語る場所を提供しよう、と開始しました。今まではWeb上で新規顧客を獲得するにはバナー広告などが一般でしたが、今は「友達が使っているから」「友達が買ったから」という要素が無視できなくなっている。my MUJIではファンの方々が楽しんでもらえることを第一の目的とし、ファンの方に何度も足を運んでもらったり、そこへ友達の会話の延長線上で新しいお客さまにも来ていただける場を目指しました。
――スマートフォン向けにカレンダーやノートブックといったアプリも提供されていますね。
川名 これまで無印良品は製品を店舗やWebサイトで販売していましたが、スマートフォンアプリのマーケットが登場した時に、「このマーケットで我々が販売すべき商品はなんだろう」と考えた結果がカレンダーやノートブックなどのアプリでした。
ただ、当初はコンテンツ販売そのもので利益を得ることを考えていましたが、結局のところは無料もしくは低価格に設定し、あまり利益を求めないことにしました。まずは利益よりもお客さまに使っていただき、それをお客さまとの会話のきっかけにしよう。アプリ展開の最初の目標はそこにあります。
――ソーシャルゲーム要素を取り入れた「MUJI LIFE」も始められました。
川名 これもコミュニケーションの考え方に近いですね。お客さまとのコミュニケーションというと、どうしてもメールで許可を取った上で「これが安いよ」「これが新製品だよ」という情報を送るばかりになりがちですが、もっと違う形はないのかな、と感じていました。
MUJI LIFEでは、無印良品で取り扱う商品をデジタルコンテンツとしてコレクションできるゲームです。お客さまが自分の好きなコレクションを収集したり並び替えたりと遊んでいるうちに、新商品に気がついてもらえたりというコミュニケーションが自然にできあがるのではないか。そんな提案も込めてMUJI LIFEを開始しました。お客さまがコレクションしたい、という嗜好性が第一の目的ですので、Amazon.co.jpのCDや本なども自由に選べるようにしています。
Amazonが競合であってはならない
――他社の商品も扱うことに反対意見などはなかったのでしょうか。
川名 本棚に好きなものを並べるなら本やCDも並べたい、そうするとAmazonだよね、というのは自然な流れでしたね。Amazonが競合という意識はまったくなくて、むしろ無印良品は競合であってはいけないと考えています。Amazonで売っているクリアファイルは他のお店でも買うことができるかもしれませんが、無印良品で取り扱う商品は無印良品でしか買うことができない。そういう当社ならではのブランドがあるからこそ、他社を競合と考えることなく連携することができていると思います。
――大手SNSだけでなく、「giftee(ギフティ)」との取り組みもされています。
川名 無印良品にはさまざまな商品がありますが、残念ながらギフト市場に無印良品のニーズはないのかな、と感じています。ここぞという時の贈り物、たとえば彼女の誕生日プレゼントというときに、あまり無印良品の商品は選ばれないんですよね。
一方で我々としてもそういう市場に取り組みたいとは考えていて、日常の中でホームパーティーに持って行く時のちょっとしたお礼として無印良品を選択する、という風習が日本でも根付けばなあと感じていたところに、同じようなコンセプトでサービスを展開していたのがgifteeでした。ギフトを贈ることが日常に根付く、という風習はチャレンジしてみた課題でもありますし、それがデジタルサービスを利用して広がるという試みはとても魅力的ですね。
――今後ソーシャルで取り組んでみたい施策はありますか。
川名 やはり最終的には商売に結びつけなければいけません。これまではAISAS理論で言うと、カレーの引換券をプレゼントするキャンペーンで、無印良品と少し離れているお客さまにも認識していただいたり、MUJI LIFEのようなゲームで遊んでもらったり、もう少し無印良品と距離が近いお客さまにはmy MUJIを使っていただいたりと、お客さまに応じてサービスを整理し、狙いを定めて展開しています。
今後取り組んでいきたいのは、お客さまに商品を購入いただいた後のコミュニケーションですね。それはくらしの良品研究所にも近いのですが、実際に購入いただいた後に「ここがよかった」「ここがもう少し違っていたら」「こんな商品が欲しい」といった購買の先もソーシャルでつなぎたい。今はまだ実現できていませんが、くらしの良品研究所の次のステップとして取り組んでいきたいですね。
また、現在は分断化して提供してる各種サービスをIDなどで統合することも考えています。今はそれぞれのサービスが別々ですが、CURRYスゴロクを遊んで、MUJI LIFEでコレクションを作り、店舗へ行ったときにチェックインを使った、というときに、それぞれの活動を1つにつなぎ、関係性を理解した上でお客さまのおもてなしをしていきたい。いわゆる「ソーシャルCRM」みたいなことにも取り組んでいきたいと思います。
――インタビュー雑感
ツイッターやフェイスブックへ早くから取り組むだけでなく、独自のコンテンツやサービス展開にも積極的な良品計画ですが、その陰には「ソーシャル対応も店舗での対応も同じ」という、店頭で実際に顧客とコミュニケーションしている経験が非常に活きていると感じました。その上で良品計画が持つ独自のブランドを最大限に活用し、独自コンテンツも積極的に展開するその姿勢は、非常に学ぶところが多いお話ばかりでした。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹
次回(5月28日)はバンダイナムコゲームスです。
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