さて、ではここからは、僕が今回NYF審査で出会ったイチオシを5つ紹介しましょう。
まずは、CMからCANAL+というフランスのケーブルチャンネルのThe Bear。
熊のおなかがペラペラなわけが最後にわかる種明かしストーリーです。彼がリビングの敷物だった頃、CANAL+の豊富なコンテンツを毎日見ていたことが、映画監督に目覚めたきっかけだったんですね。
僕は、Concept Idea, Brand Relevancy, Production Executionの3つすべての基準に最高点をつけました。一個人としては、自分がもし「コンテンツが豊富」というブリーフをもとに企画を考えたとしても、ここまでジャンプできないなあ、と才能に嫉妬です。今回僕は“I don’t give a shit”(知ったこっちゃない)という素敵な英語を覚えました(笑)。
http://www.youtube.com/watch?v=bDwrYK3d69o
次は、インテグレートキャンペーン。クリスピン・ポーター+ボガスキー社とデジタス社が行った、アメリカンエクスプレスの “Small Business Saturday”。これは今年のNYFのWorld’s Best Ideaに選ばれました。
“Shop Small”を合言葉に、中小企業、零細商店を応援するさまざまなソーシャルツールを提供し、最終的には政府のおすみつきまで獲得した、いわば「土曜日は地元商店街の日」ムーブメントキャンペーンです。
実際にアメリカ経済に活力を与え、アメリカ社会を変えたキャンペーンだとその影響力が圧倒的な評価を受けました。
3つ目は、僕が一番衝撃を受けたインテグレートキャンペーン、オランダのALS Campaignです。ALSという筋肉が収縮して死に至る不治の病に対する研究資金を呼びかけるため、発病した方が出演し、亡くなってからオンエアされるというショッキングなものです。
「ALSの研究に援助を。私のためでなく。なぜなら私はすでにこの世にいないから」
死者からのメッセージ。「何を言うか」でなく、「誰が言うか」の力を見せつけられました。
http://www.youtube.com/watch?v=weicL19HBB4
4つ目は、インタラクティブカテゴリーから、State Farm保険のState of Chaos。住所と名前を入れると不気味なモビルスーツみたいなロボットがやってきて、クルマを落とし、最後には自分のいるところをビームで爆破してしまいます。
ストリートビューやフェイスブックのパーソナルデータを使って、自分事化させるインタラクティブキャンペーンはたくさんありましたが、これは“Museum of me”と並んで圧倒的にクラフトがよくできていました。実際に審査会場でやってみましたが、僕らのホテルにビームが発射され、New York Festivalsと書いてある郵便箱が爆風でセントラルパーク上空を舞うのは圧巻でした。まだやったことない人はぜひやってみてください。
最後は審査で議論になったCM。The Guardianという新聞の“三匹の子豚”。
オオカミを釜ゆでにした3匹の子豚を機動隊が逮捕、この是非についてソーシャル上では議論が起こり、オオカミが子豚の家を吹き飛ばしたのは喘息のせいだったり、子豚達は住宅ローンに苦しめられていたりという新事実が明るみに出て、格差反対デモに拡大していく大作です。どんなニュースにも実は様々な背景が潜んでいるということなのでしょう。
実はローンチが今年の2月29日、エントリー規約が2月15日以前だったので、NYFではエントリー却下になってしまいましたが、社会問題提起とジャーナリズムの意義を投げかけている広告だと思います。
以上2回にわたってニューヨークフェスの話をしました。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
木村健太郎「やかん沸騰日記」バックナンバー
- 第8回 ニューヨークフェスティバル審査日記(前)(5/7)
- 第7回 英語はどうやったらしゃべれるようになるのか(4/18)
- 第6回 博報堂の採用リクルーティング広報の真実(4/4)
- 第5回 ただいまアドフェスト最終日。(3/21)
- 第4回 蕎麦打ちから弓道まで。ケトル研修合宿のお話 (3/7)
- 第3回 オキニケーションとアテニケーション。ケトル沸騰用語辞典 (2/22)
- 第2回 ブレイクスルー20分前。ケトル沸騰の瞬間(2/08)
- 第1回 カンヌの海は熱かった。ケトル設立秘話(1/25)