MROCが登場する必然性ー社会環境の変化に合わせて、マーケティング情報収集の手段が変容している
ソーシャルメディアの活用が企業にも広く普及した今、マーケティングリサーチの新手法として注目されているのが「MROC」(Marketing Research Online Community)だ。特定のテーマに関して興味関心のある人を集め、コミュニティ内のさまざまな機能を使って自然な会話を引き出すというこの手法が、なぜ注目されているのか、GMOジャパンマーケットインテリジェンス 取締役副社長 織戸恒男氏に聞いた。
※『インサイト発見に強み!新リサーチ手法「MROC」(前編)』はこちら
個人情報保護の意識で変容する情報収集の手段
MROCは消費者インサイトをより深堀したいという企業側のニーズを受けて生まれてきたものだ。一方で前回に述べたように、社会環境の変化に合わせた調査手法の変容という側面もある。これまでの歴史を見ても、調査手法は常に時代の変化に合わせて変わってきた。MROCが登場した背景にも、社会環境の変化による必然としてデータコレクション、つまりは情報収集手段の変容の必要性も大きいだろう。
たとえば90年代中頃までは訪問面接調査も多く行われていた。この場合、対象となる市町村で住民基本台帳を閲覧し、そのデータからランダムに対象者を抽出し、訪問していた。しかし現在では個人情報保護の観点から、マーケティング調査の実施を目的とした住民基本台帳の回覧は基本的にできない。
電話調査もあるが、これも電話帳のデータベースをもとにランダムに抽出したサンプルが対象。かつては家庭に電話があることはステータスであったし、だからこそ電話帳に自分の名前を掲載することを拒否する人は少なかった。しかし、この状況も変わっている。電話調査の場合「RDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)」といわれる、自動的にランダムに電話番号を生成し、調査地域内の対象者に電話をかけられるツールもあるが単身者世帯、共働き世帯の増加から電話をかけてもつながらないケースが増えており、また若年単身者世帯では固定電話への加入も減少している。
加えて、若年層のPC離れ(正確に言うと、インターネットへの接続端末がスマートフォンへとシフトしていること)も無視できない。
MROCが調査のプラットフォームの主流に
MROC登場の背景には、こうした情報収集の環境を取り巻く変化がある。とはいえ、MROCが登場したからと言って、それが従来の調査手法すべてにとってかわるものではない。しかし消費者と直接接点を持つことが難しかったメーカーでは、特にMROCを活用できる場は多いと考えている。コアなファンのいるブランドの場合は特に、企業側がブランデッド・コミュニティを保持しているケースも多く、そのコミュニティを媒介としてマーケティング情報を得ることができ、独自に調査を実施することも可能である。
調査会社は、コミュニティ参加者のリクルーティングから運営、レポーティングまでをMROCのサービスとして提供しているが、ブランデッド・コミュニティの活用によって、企業側も独自の調査が可能になるという点に危機感を抱き、新たな支援の方法、企業のブランデッド・コミュニティと調査会社との関係のあり方を真剣に考える必要があるだろう。
インターネット調査の比率が調査手法全体の4割を超えるまで約10年を要したが、インターネット調査が登場した頃に比べると社会環境の変化のスピードが加速している。こうした背景から、MROCが調査のプラットフォームの主流に躍り出るのに、それほど多くの時間を要さないかもしれないと考えている。