負の負債から愛の夫妻へ。

夫婦円満の街の宣言

企画当初からずっと気になっていたことがありました。それは急激な人口減少により、夕張市が日本で3番目に人口の少ない市になってしまった事実。この事実を何とか前向きに使えないものか。人口の多くが高齢者夫婦。ということは離婚する人は少ないだろう。様々なデータをひっくり返し「日本一離婚件数の少ない市」である新事実を見つけました。名実共に「日本一夫婦円満の市」と言えることを発見したのです!僕らはこの事実を持って2回目の記者会見に臨みました。僕らだけでなく住民の方々に宣伝役になってもらい、新生夕張を盛り上げていく。「夫婦円満の街」宣言ポスターを街中に貼り、さらにはその象徴として夕張市役所内に夫婦円満課を常設し「夫婦円満証」という夫婦の愛の証明書を発行することにしました。第一号の円満証は入籍したての夕張の若いカップルに市長から贈呈してもらいました。その様子がまたニュースとなって発信されていく。「自虐」という尖ったアプローチから真の目的である人間の心を動かす活動へ。ひとつの指針が示された出来事でした。地元の方々から温かい声をかけてもらえるようになったのも、思い出深いです。

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2007年11月22日「いい夫婦の日」に開かれた2回目の会見。市長自ら「夫婦円満の街、夕張」を宣言してくれました。

夫婦円満を軸とした商品開発

「夫婦円満の街」として再始動した夕張市が新たな収益を生むために、僕らは様々な商品を作りました。Tシャツやマグカップなどのオリジナルキャラクターグッズはもちろん、地元にあった様々な商品をリニューアルし命を吹き込みデビューさせました。例えば古く暗いイメージを引きずっていた「炭坑ビール」を一新し「夫婦円満ビール」にしたり、普通のおまんじゅうを「夫婦えんまんじゅう」として旅行者が面白がって購入したくなるものにしたり。事実、夕張を訪れた修学旅行生たちが「うすれゆく夫婦の愛に」というコンセプトに笑って手にしていきました。また夕張で長年名物だった「カレーそば」を出すお店が潰れてしまった時には、その名物を復活させるお手伝いもしました。とにかくこのおそば、量が多くてアツアツ。ふうふうしながら食べていた体験から「ふうーふうー(夫婦)カレーそば」と名づけポスター展開しました。全ては「夫婦円満」というコンセプトをもとに得意のダジャレを使って展開。先方も僕も心から楽しんで作りました。これらの企画デザイン印刷は全てビーコン負担。商品の売り上げのいくらかが夕張市再生に動く地元のNPO団体に入るようなスキームも確立しました。

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商品の一部(上左から「円満ビール」「愛の始発駅CD」「カレーそばポスター」。下左から「夫婦メロメロン大福(2008年東京都庁で開かれた夕張物産展にて販売)」「夫婦えんまんじゅう」「円満焼酎」「UFOキャッチャーの景品になった夕張夫妻マスコットのポスター」)

このキャンペーンはボランティアということもあり、あくまでも住民が自活し観光客やビジネスを呼ぶキッカケをつくるまでを目標にしていました。「夫婦円満の街」という土台をつくった僕らは、最後に民間企業に向けて協賛を募る活動をしました。下は「企業と広告」という雑誌の掲出原稿。メディア費もこちら負担だったので、大々的にはできませんでしたが、少しでも夕張にとって明るいニュースが届けられればと思い出稿しました。

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最終的にこれらの活動で微力ながら夕張への観光客増加や赤字返済に貢献できたこと、カンヌ広告祭で日本初となるプロモ部門グランプリを獲得できたこと、そのニュースを夕張市が「世界一のプロモーションの街」として二次活用したことは本当に嬉しく誇らしいことでした。地域をワクワクさせる「事実」や「発見」を基にした強いアイデアで人を動かす。「広告」ができる素晴らしい体験は、僕を一回りも二回りも大きくさせてくれました。

三寺雅人 「ガイシの夜明け」バックナンバー

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三寺 雅人(ビーコンコミュニケーションズ/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)
三寺 雅人(ビーコンコミュニケーションズ/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)

1975年生まれ。国内広告会社でCMプランナーとして活動後、外資系広告会社ビーコンコミュニケーションズに入社。クリエイティブディレクターとして外資、国内双方のクライアントを担当する。また、クリエイティブの発想やアイデアを基に自主提案を仕掛けていく社内プロジェクトを立ち上げ、夕張市復興キャンペーン「夕張夫妻」を企画・実施。最近ではシマンテック(Nortonセキュリティ)の「犯罪者Nキャンペーン」「たいせつなものキャンペーン」、レノボの「DOキャンペーン」、京王電鉄の「樹の里高尾山キャンペーン」などを手がけている。2012年4月エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)に就任。国際広告賞の受賞および審査員経験も多数。

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beacon communications : http://www.beaconcom.jp

三寺 雅人(ビーコンコミュニケーションズ/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)

1975年生まれ。国内広告会社でCMプランナーとして活動後、外資系広告会社ビーコンコミュニケーションズに入社。クリエイティブディレクターとして外資、国内双方のクライアントを担当する。また、クリエイティブの発想やアイデアを基に自主提案を仕掛けていく社内プロジェクトを立ち上げ、夕張市復興キャンペーン「夕張夫妻」を企画・実施。最近ではシマンテック(Nortonセキュリティ)の「犯罪者Nキャンペーン」「たいせつなものキャンペーン」、レノボの「DOキャンペーン」、京王電鉄の「樹の里高尾山キャンペーン」などを手がけている。2012年4月エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)に就任。国際広告賞の受賞および審査員経験も多数。

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