編集オペレーションの実際では、直接に「PV」を意識することはできません。PVは常に事後的に生み出されるものなので、記事を公開する前には、全くグリップ不可能な数値だからです。そこで、日常的なオペレーションでは、記事の「本数」が生産性を把握する基本単位になります。
そして、記事の一本一本にかかった費用と、記事の一本一本が生み出したPVを、自分達の担当するサイトを構成するカテゴリー要素(ニュースサイトならば、「政治・経済」や「芸能」「スポーツ」)ごとに把握したり、情報の仕入先である外部ライターや、社外の情報提供元(通信社などニュースベンダー)の発注単位ごとに把握していきます。
紙メディアの編集業界では、文字量ごとに、なんとなく原稿料の相場がありました。しかしネットメディアになり、「PV」が通貨のような価値を持ってしまう現状では、下記のような状況が起こりえてしまうのです。
●1記事5万円だけど、内容が凄く刺激的でいつも、ソーシャル中心にバズが巻き起こるので1本平均で50万PVも獲得できるライターのAさん
⇒PV獲得コスト=0.1円(5万円÷50万PV)
●1記事3000円だけど、独自性の少ないネタを、リリース起こしで書くので1本平均1万PVしか読まれないライターのBさん
⇒PV獲得コスト=0.3円(3000円÷1万PV)
ウェブメディアにおいては、上記の比較では、1本あたりのギャラでBさんの20倍近くを取る、ライターAさんのほうが「安い」のです。ウェブメディアの編集者ならば、AさんとBさんのどちらを重用すべきか、といえば明らかにライターAさんでしょう。こういう背景に基づいて、フリーライターさんにも「格差社会」がやってくるのかもしれません・・・。(なお、上記の費用には、当然のことながら、PVの増減に関係なく発生してくる、サーバー費用や社員編集者の人件費などの固定費用を含めるべきではありません。シンプルに実行するためには、直接に紐付いた発注金額(=キャッシュアウト額)だけで十分でしょう。本稿は管理会計の話題は対象スコープではないので、コレ以上は踏み込みませんが、メディア事業向けの管理会計というのは、もっと研究されてよいテーマだと思います。例えばサーバー費用を固定費と見るべきかどうかは、このクラウド時代に大いに議論のある論点だと思います)
また、トラフィック分析においても、いわゆる「20対80の法則」が当てはまるケースが非常に多いです。往々にして、上位10〜20%の記事が、大多数(=80%)のアクセスを生み出しているわけです。こういう場合、ウェブメディアの編集責任者は、自分のサイトの中でどの部分が、スイートスポットの上位20%にあたるのか、ぜひ把握せねばなりませんし、日頃の改善努力も集中的にそこに注ぎ込む必要があります。
これまで売上と費用について話をしてまいりました。そして、最後に「利益の最大化」を求められるメディア事業責任者の立場で言えば、究極的には働きかけるべき項目は、下記の3つになります。
=(「PVあたり売上」−「PVあたり費用」)×「全体PV」
(ゲームやECのように、よりユーザー・べースで把握すべき事業の場合は、上記のPVがユーザーに置換される)
つまり、できるだけ多くのPVを、できだけ安い費用で稼ぎ、できる限り高い効率でマネタイズする。身も蓋もないシンプルな話になります。
編集者らしい編集者の方は、今回のコラムで触れたように「定量化」し「構造化」されたKPIに基づいて、プロセスについてPDCAのサイクルを回していくといいうこと自体、あまり好まれない方が多いようですが、営利事業としてメディア運営を拡大・継続していく上では、この観点は決して逃れられません。数字に強く、抜け目のない感覚を発揮することに支えられた高収益メディアには、それだけ編集コストの負担力もますわけですし、イベントや交通広告などを打つ余力も出てくるでしょう。
編集者の方にも響くように、文学的に、ドストエフスキーの言葉を引用してしめくくりましょう。
かのロシアの文豪が言うには「貨幣とは鋳造された自由である。」
つまり、稼げるメディアは、それだけ自由なメディア足り得るのです。
編集者の皆さん、ロマンを忘れないようにしながらも大いにソロバンを弾き、稼ぎ、儲けましょう!
さて、皆様にお知らせしたいことがあります。筆者は、この6月1日より、NHN Japan株式会社に入社し、執行役員 広告事業グループ長を拝命することとなりました。メディア・ビジネスの主戦場がデジタルへと移行していく中で、編集・広告セールスの両面からその水準向上に努力してまいりますので、どうかよろしくお願いします。
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