オランダで人気の “ご近所おすそわけSNS ” Thuisafgehaald を試してみた

海外在住のクリエイターが現地のクリエイティブをレポートする「ブレーン」の連載「WORLD WATCH」。本記事は、「ブレーン」最新号の同連載のスピンアウトコンテンツ。誌面に載せきれなかった筆者の体験談の全貌を紹介します。

文:樋口歩/グラフィックデザイナー

一人暮らしで自炊しているとよく「今日は疲れたから夕飯つくるの面倒だなぁ」という気分になるのは私だけではないだろう。しかしコンビニもファミレスもないオランダでは、決して安くはないレストランで外食か、あまり健康的ではないピザや中華などのテイクアウトの二択しかない。そこで最近気になっていたThuisafgehaald(タウスアフヘハールト)というサイトを利用してみることにした。

このサイトは、例えばスープを多く作りすぎてしまった、あるいはラザニアやパイなど少量だけ作れない料理をシェアしたいといった、ごはんの「おすそわけ」情報を投稿・閲覧することができる。

グーグルマップと連動してご近所にしぼって探すことができるのが特長で、食べたい料理が見つかったら作った人にサイトを通じて連絡しその人の家まで取りに行く。たいがい材料費程度の少額の代金(3~6ユーロ)と引き替えとなっている。

料理が趣味の一児の母、マリーケ・ハルトさんが今年3月に立ち上げたばかりのサイトだが、現在の登録者数はオランダ全土で約4800人。今も順調に数を伸ばしている。

MAP

私の家の近所(自転車で5分で行けるくらい)をThuisafgehaaldで検索した画面。コック帽アイコンが料理人、スプーン・フォークのアイコンは受け取った人。

1.おすそわけしてみる

とはいえ、ネットで知り合ったばかりの人のお宅を突然訪問するのはなかなか勇気のいるもの。まずは自分が料理を提供する側から始めてみることにした。記念すべき第一回目のメニューは炊き込みごはんのおにぎり。いつもは一、二食分だけ作る炊き込みごはんを大きな鍋いっぱいに炊き、持ち帰りしやすいようにおにぎりに。オランダには完全菜食主義者の人も少なくないので、だしは鰹を使わず昆布としいたけでとった。サイトに投稿する際にはこのような材料についての情報もできるだけ詳しく書く。初回なので気軽に試してもらおうと思い、おにぎり2個にキュウリの浅漬けをつけて3ユーロと安めの価格設定にしてみた。

写真をつけてアップし一時間ほどたったころ、サラさんという女性から連絡が。短いメールをやりとりし夜7時半ごろに私の家に立ち寄ってもらうことになった。料理を気に入ってもらえるだろうか、どんな人が来るのだろうかと緊張しながら待っていると、玄関のベルが鳴り「こんばんは、おにぎり取りに来ました!」という元気な声が。実は彼女、今日このサイトを知って登録したばかりで、偶然家の近所に大好きな日本食のおすそわけを発見し、すでに夕飯を食べたにもかかわらずわざわざ来てくれたそうだ。

お互い初めてのおすそわけ体験だったが、日本料理の話などで盛り上がり楽しいひとときが過ごせた。翌日サイトを見るとサラさんから私の料理へのコメントが残されていた。「おにぎり本当においしかったです。また絶対あなたの料理をテイクアウトするね」。自然と顔がほころんでしまい、次のメニューは何にしようかと思いを巡らしたのは言うまでもない。

Onigiri

おにぎり2個にキュウリの浅漬けをつけて3ユーロと安めの価格設定にしてみた。

Sara

翌日サイトを見ると私の料理へのコメントが。

2.おすそわけにあずかる

Thuisafgehaaldでは気になるコックさんを「フォロー」することができ、その人が料理を出品した場合はメールで知らせてくれる機能がある。私も自宅や通勤路近くに住んでいるコックさんを調べて、過去に提供した料理の傾向や実際食べた人からの評価などを見て何人かフォローしている。おすそわけ情報は不定期に入ってくるのでこれはなかなか便利だ。

ある日のお昼過ぎ、おいしそうなあさりのパスタの写真が送られてきたのでチェックしてみると、仕事場から自転車で5分ほどのところに住むティンダさんが今晩おすそわけする料理だという。ちょうど仕事が夜まで長びきそうだったので、渡りに船とばかりにおすそわけにあずかることにした。サイトの注意書きでは、料理を受け取るときに容器を持参するよう推奨されている。空のタッパーとお財布だけ持って約束の6時半に合わせて出かけた。迎え入れてくれたのは笑顔のティンダさんと、キッチンから漂うシーフードとガーリックの香り。実は彼女、予約に応じて自宅のリビングでレストランを開くセミプロのシェフで、私の到着にあわせてゆであがったパスタを仕上げる様子もさすが手慣れたもの。一ヶ月ほど前にこのサイトに登録してからすでに10品以上の料理を提供している。私は今日二人目の訪問者で、この後もう一人料理を取りに来る人がいるという人気ぶりだ。あさりを購入した魚屋の情報も教えてもらい充実した気分で帰宅し、食べてみたパスタの味は……極上!辛いもの好きな私にあわせてその場で唐辛子を多めにしてくれた味つけがバッチリで、お店ではなかなかできない心遣いに嬉しくなった。

一昔前ならあたりまえだったおすそわけの習慣やご近所づきあいをインターネットで復活させるこのプロジェクト。料理友達が増えて胃袋も満たされる。そんな一石二鳥の存在だ。

スモーレンブルグさん

調理器具と料理本がいっぱいのティンダ・ファン・スモーレンブルグさんのキッチン。

www.facebook.com/ijkeuken/
あさりのパスタ

今回テイクアウトしたあさりのパスタ。この味と量で6ユーロは大満足。

樋口歩
グラフィックデザイナー。アムステルダム在住。2009年ヘリット・リートフェルト・アカデミー卒業。http:www.ayumi.nl

追記:Thuisafgehaaldのマネージャーより、アドタイ読者の皆さま宛に下記のメッセージを頂きました(6/5)。

The Dutch site Thuisafgehaald.nl is looking for partners to launch the site in Japan.
If you’re interested please contact Marieke at info@thuisafgehaald.nl. (In english please :)

(訳)私たちは日本でこのサービスを開始するためのパートナーを探しています。
このサービスの日本での展開に興味がある方は、info@thuisafgehaald.nl Marieke宛にご連絡ください(英語でお願いします)。



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