レコチョク本腰で音楽のスマホシフト加速か
皆さんレコチョクという会社をご存知であろうか? 「着うたⓒ」を広めた会社といえばわかりやすいのであろうが、世界では珍しい大手のレコード会社が共同で立ち上げた会社である。レコチョクは従来の携帯電話、フィーチャーフォンに対するサービスしか提供してこなかったのであるが、本年に入って矢継ぎ早にスマートフォン向けのサービスを打ち出してきた。筆者はこれによりゲーム業界に続き、音楽も本格的にスマートフォンシフトが加速してゆくのではないかと考えている。
歴史を紐解いてみると設立当初、「株式会社レコチョク」は「レーベルモバイル株式会社」という社名で2001年6月のニュースリリースによると「~携帯電話をCDのプロモーションメディアとして積極活用~」といううたい文句であった。しかし同年9月には「レコード会社直営♪」というサービスで、国内14社のレコード会社が着信メロディを配信するサービスを開始したのである。当初会社設立の目的を携帯によるCDプロモーションとしたのは既存のレコード・CDショップのセールスに配慮してのことであったと考えられ、またサービス開始時も「着信メロディ」(今の着うた©)として、楽曲全部を配信しなかったのは既存のショップに対する配慮のみならず、まだ携帯の帯域や回線が楽曲を丸ごと快適にダウンロードするには脆弱であり、かつ、インターネットのパケット定額などの制度が整っておらず、楽曲の代金よりもダウンロードにかかる通信料がかかることが考えられるからだろう。
そんな中、2004年に通信速度の速い第3世代携帯電話「CDMA 1X WIN」向けの新サービス「着うたフル™」がスタートした。一曲を丸ごと快適にダウンロードできるということは、携帯の性能(通信速度)をアピールする上で大きな差別化になり話題を呼んだ。さらに、この動きを加速させたのが2006年の「MNP(モバイル・ナンバー・ポータビリティ)」の普及である。従来は、通信キャリアを変更すると電話番号も変更になっており、解約しない要因となっていたのである。しかし、MNP導入で電話番号を持ち運べることになり、通信キャリア各社が顧客獲得競争のため「パケット定額」の料金体系を相次いで導入したために、ユーザーはパケット料金を気にすることなく音楽をダウンロードするようになった。ただし購入した音楽は携帯電話を変更しても持ち運びができなかったのである。
複数端末で使える音楽サービス普及に期待
レコチョクは日本の主要レコード会社が出資しているので日本の楽曲に関しては非常に強く、レーベルによっては他のダウンロードサービスには出さない楽曲が用意されていたり、先行発売するケースが多いのも特徴である。そして、PCやスマートフォンでのサービスは一切行ってこなかったのである。海外ではPCやスマートフォンでiTune、Pandora、Spotifyなどの楽曲のダウンロード、あるいはダウンロードせずに聞くだけのストリーミングサービスが普及しているが、日本に大きく普及しなかったのは携帯がフィーチャーフォンで海外サービスが対応していないという点が大きかったのである。しかし、日本でもスマートフォンが大きく普及してきた中で、レコチョクはスマートフォン向けのサービスを行っていなかったので売り上げに徐々に影響が出てきたようであり、それが矢継ぎ早のスマートフォン向けのサービスの普及につながったのであろう。
レコチョクは2010年以降、スマートフォン向けのサービスを展開してきたが、最近はその勢いが増しているように感じられる。特に2011年7月と8月にそれぞれドコモのAndroid向け「着うた©」と「着うたフル」のサービスを導入したのが本格化の始まりであるだろう。同年の12月にはフィーチャーフォンでダウンロードした楽曲をAndroidスマートフォンで再ダウンロードできる、「お預かりサービス」を導入した。2012年に入っても4月にKDDIのau Android端末向けの「Lismo Music Store Powered by レコチョク」やソフトバンクのAndroid端末向けの「着うた©」といったサービスを開始しているのである。
MNPが競争を促したように、現在コンテンツもどんどんスマートフォンに対応してきている。今後PCやタブレットも含めた3種類の端末を使いこなしてゆくユーザーが増え、一人1台以上モバイル端末を保有することが当たり前の世の中では、端末固定ではなく、どの端末でも使えるサービスが普及するはずであると筆者は見ている。特に音楽のような万人向けのサービスではしかりである。しかし、この点は楽曲の供給体制を含め日本ではまだクリアしているサービスは無い。海外のサービスに日本の楽曲が乗って普及するのか、日本のサービスが端末やキャリア依存でないサービスに移行するのか、それ以外の選択肢が席巻するのか、勝負はまだ見えていないのであるが、一つ注目すべき大きな点ではないだろうかと筆者は考えている。
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