株主総会前は怪文書のオンパレード!?
株主総会が近づくと、総務部や広報部あてに色々な文書が投かんされる。氏名不詳の株主からの問い合わせや存在が怪しい消費者団体などからの質問状である。
「株主」と称する個人からの問い合わせは、労働問題や残業代不払い、ハラスメントや過労死など、多くの企業で対応している関心の高いリスクについて、現在の課題や対応状況を確認している内容だが、当該企業の具体的な状況を把握している様子が一切うかがわれない。氏名不詳のため、本当に「株主」かどうかさえ不明なこの種の問い合わせについて、株主総会でどう対処するかは企業側の判断に委ねられている。あえて無視することも可能だが、私が顧問を務めている企業では株主質問の前に手紙の内容を紹介し、回答するよう指導している。実際に株主総会に発信者が参加し、「隠ぺいしようとした」とあとあと追求されることを避けたいからである。
一方、消費者団体と称する団体からの問い合わせは、発信元の存在自体が怪しい上に、数枚に及ぶ大量のアンケート調査に回答するよう強要している点も不自然である。食の安全を目的とした管理体制について、一律食品会社に送付したのではないかと思われるが、回答を拒めば、回答できない理由があると考え、団体として関心を持ち、調査をするようなことが付記されている。手紙はアンケート調査資料とともに全て印刷で、文面からしても特定の企業に送付したとは考えられない。回答すれば、回答の一部が意図的に利用されたり、利用目的自体が明確でないため、この種の質問状への対応は無視するよう指示している。
さらに、悪質な手紙は企業の会長や社長の自宅に投かんされる。人から金員で依頼されて対象者に対して風評を重ねて抹殺する組織と自ら紹介している。いわゆる「必殺仕掛人」現代版である。わざわざ猶予期間を10日間ほど置いて、その間に連絡をよこせば実行を保留すると書いている。当然ながら発信者は反社会的勢力と何らかの関係があるものと考えてよい。オリンパス事件以降、この種の手紙が増えている。経営者が外部に知られたくない不正を隠している場合、この種の手紙に反応して連絡してしまうと、自ら反社会的勢力に脅迫されるネタを渡してしまうことになり、あとあとまで厄介な対応を迫られることになる。この種の手紙は、弱みを持つ会社や個人をあぶりだすために一律投かんされているものなので、反応すること自体が危険である。
総会屋なき時代でも反社会的勢力からの攻撃は形を変えて存在する
脅迫的文書の取り扱いは、社内の色々な部署を経て、弁護士や所轄警察署に渡されることがある。しかし、多くの人がその手紙を取り扱うことで証拠保全が不完全なものとなる可能性がある。できれば、最初にその種の手紙を受け取った者は、封筒と手紙をひとつひとつ別々に透明な袋に入れ、指紋がベタベタつかないよう配慮すべきである。自筆部分と印刷部分の違いや切手の有無、住所表記の間違いの有無など、その企業や個人を本当に狙った上での要求なのかどうかも重要な判断の分かれ目となる。特に会社名の誤記や個人の姓のみの表記などは、標的となる対象者の絞り込みがずさんで、その相手を攻撃対象として特定しているものとは考えにくい。
この時期、この種の問い合わせや脅迫的な手紙が舞い込むことも出てくる可能性がある。総会屋なき時代でも、反社会的勢力は形を変えて色々な攻撃を企業に対して行うための準備をしている。総務部、広報部、役員室などは冷静に対応して、必要であれば顧問弁護士や所轄警察署へ相談し、過剰な反応は避けるべきである。
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