「世界中から最も優秀な審査員が集まるカンヌで、最優秀作品と評価を受けるのは、ほかの賞にはないインパクトだ」とタッセル。「特に最近は、主要広告主のマーケティング最高責任者が多数参席している。受賞した広告会社やクリエイターはたちまち広告主の間で有名になる。他の賞にはこうした効果はない」とタム・カイ・メンも話す。
ただし「効果があるのは、檜舞台で賞を手にできるゴールド以上。シルバーやブロンズには何の効果もない」とクリスピン・ポーター+ボガスキー(CP+B)の最高経営責任者(CEO)で最高クリエイティブ責任者(CCO)のアンドリュー・ケラーは辛辣だ。
「1+4」の4は、D&AD 賞、ワンショー、クリオ賞、そしてロンドン国際広告賞である。「それぞれかなりの水準を保つが、カンヌのほかは十把一絡げといった感じ」とは、とある有名クリエイターの意見。こんなシニカルな意見もあるものの、これらの賞の最高賞に輝くことは、クリエイターにとって、それなりの意味があるのは言うまでもない。
特に英国内の広告賞として始まり、最近、国際的な広告賞へと転換したD&AD 賞は、「入賞するのが極度に難しい」という理由のために、カンヌに次いで、入賞へのあこがれが強い賞である。
とはいえ、米国のアドパーソンの中には、未だ色濃く残る「英国色」を非難する人も多い。「あまりにも英国主義的だ。審査員はほとんど英国人で、国際広告賞と呼べない面が多々ある」とタム・カイ・メンは指摘する。「ほとんど入賞できないので応募する気を失った」とはTAXIのCD ランス・マーティンの弁だ。
こうした非難に対し、「D&AD 賞には賞の数にノルマはない。該当する作品がなければ、ペンシル(賞)は与えない。カンヌのように数多くの賞を贈ることはしたくない。ブリッツ(英国人)気質が当賞の特徴だ。これは変えらない」と、D&ADのCEO ティム・オケネディは、受賞の難しさを、むしろ誇りに感じているようだ。
D&AD 賞の米国版と言われるのがワンショーだ。いずれも非営利団体で、“ ペンシル” をトロフィーのモチーフにしている点で似ている。「非営利団体は収益を広告業界の教育に還元する義務がある。だから僕は、D&AD 賞、ワンショー、アンディ賞(米国広告連盟主催)のような取り組みを応援している」とケラーは話す。
「ワンショーは理事長のメアリー・ウォリックの監視下で、かなり厳格な審査方法が採られているので信用できる」とタム・カイ・メンも評価している。そのウォリック自身は「目的は収益増ではない。広告業界の質の向上が我々の到達点だ」と強調する。この姿勢は、D&ADやワンショーも同様で、学生が対象のワークショップや学生賞の提供で、業界の水準向上に努めている。
つい数年前まで、米国ナンバーワンの賞はクリオ賞であった。だがクリオは、ここ数年低迷している。主催者だったアドウィーク誌が広告と関係のない会社に買収され、賞の「質」の管理やPR がおろそかになったためだ。「腐っても鯛、いまだにエントリーはしているが、今後はどうなるかわからないね」と話すのはタム・カイ・メン。
こうした風潮を打破すべく、今年クリオはマディソン・アベニューの広告会社にトラックで乗り付けて、クッキーを無料配布するゲリラ作戦を展開、エントリー数の復活に努めた。だが古き良きクリオを知らない若いクリエイターも多く、クリオ賞の復権には相応の労力が必要だろうと業界の知識人は見る。
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