本記事は、『ブレーン』の連載「楓セビルのアメリカンクリエイティビティ」の「世界の広告賞を解剖する」シリーズ(11月号掲載分)を転載したものです(一部当時の状況と変わっている部分もございます。ご了承ください)。
【カンヌ直前集中連載】世界の広告賞をおさらいしよう(1)はこちら
文・楓セビル
ノン・プロフィットとフォー・プロフィットの間
引き続き、米国から見た国際広告賞の情報を提供する。前回は、国際広告賞の横綱ともいうべきいくつかの主要な賞を紹介したが、今回は関脇、小結といったランクの広告賞を取り上げたい。
広告賞は大きく「ノン・プロフィット」(非営利)と「フォー・プロフィット」(営業目的)にわけられる。ちなみに、前回ではカンヌライオンズ、クリオ賞、ロンドン国際広告賞がフォー・プロフィット、D&AD、ワンショーがノン・プロフィットだった。横綱級の賞にとっては、これらの違いは賞としての“ 質” や“イメージ” にあまり関係しないが、関脇、小結となると、この2 つのビジネス・モデルの違いがかなり歴然としてくる。ノン・プロフィットの賞はより地味に、フォー・プロフィットの賞はより派手になるようだ。
このコラムでは、ノン・プロフィット、フォー・プロフィットに関係なく、米国の広告界から見た賞の重要度を基準に、賞を紹介していきたい。
レベルアップしたニューヨーク・フェスティバル
ほんの数年前まで、ニューヨーク・フェスティバル(NYF)は広告賞の関脇にも入らない賞であった。理由はいろいろあるが、ひとつは審査過程が全てオンラインで行なわれ、審査員の存在がほとんど感じられなかったこと。もうひとつは、営利目的が目につきすぎ、賞の質に神経が使われていないという印象を与えていたことだろう。事実、NYF へのエントリーはそうした事情を知らない国(主にアジア、ヨーロッパなど)からが圧倒的に多く、米国の広告会社からのエントリーは極少であった。「誰もNYF を真剣に考えているクリエイターはいなかった」とBMBのCCO ニール・パウエルは言う。
だが、2006 年にマイク・オルークという映画制作のコンサルタントをしていた青年がNYF に入社。マーケティング部門を経て、08 年に社長に就任すると、早速NYF が一流の賞になるために欠けているものの補充に努力しはじめた。ひとつは審査員の存在を目立たせること。「オンライン審査の目的は、テクノロジーを利用して、できるだけ多くの国の審査員を動員したかったから。だが、その試みは成功していないと判断し、昨年初めて世界各国の広告会社のCCO をニューヨークに集め、入選作品の最終選考を行ったんだ」とオルーク。そして、その努力を印象づけるため「ザ・ワールド・ベスト・アイデア」なる新しいカテゴリーを設け、その選考を彼らに任せた。
また、オルークは利益目的というイメージを変えるために、いくつかの社会還元のプロジェクトを導入した。「セミナーを開催し、中国の2つの大学にメディア・センターなるものを作った。そこではNYF の受賞作品が常に見られるようにした」。また、クリエイターを目指す学生のための奨学金「カレジアス・パシュエーダー」(勇敢なる説得者)を設定。「飲酒運転防止」をテーマにテレビCM を募集し、最優秀作品には3000 ドルの奨学金を提供している。
オルークの努力でレベルアップしたとはいえ、まだいくつかの問題点が残っている。ひとつは米国のクリエイターたちからいまだに冷たくあしらわれていること。11 年現在でも、米国の広告会社からのエントリーは、全体の30%に過ぎない。また、カテゴリーがテレビCM 偏重という批判もある。それに対し、オルークは、「そんなことはない。広告業界の歩みに歩調を合わせているつもりだ。これからもよく聞き、よく見、よく理解して、広告業界の現状を反映する賞にしたい」と言う。
この若いCEO の努力と情熱で、関脇から大関への道を着々と歩いているようである。
米国の老舗アドクラブの広告賞Andy
Andyは、116 年の歴史を持つニューヨークの広告関係者の組織、アドクラブが主催する広告賞である。マディソン・アベニューの重鎮をメンバーに持ちながら、あまり華やかな存在として知られていないのは、ノン・プロフィットの団体ゆえだが、マディソン・アベニューのクリエイターたちからかなり重要視されている。毎年、平均1万点を越すエントリーがあり、その60%は米国の広告会社や個人からのものだ。外国からのエントリーを増やすために、Andy は「しばしばショーの審査を外国で行なっている」と、クラブの理事長ジーナ・グリロは説明する。英国、フランス、イタリアなど、ヨーロッパの首都だけでなく、南米、メキシコ、アフリカなどにも遠征。その土地で審査が行われると知ってAndy に親近感を持つ人を増やすことを狙う。
もうひとつの特徴は、審査方法に新しい手法を導入することに積極的な点。「メンバーにクリエイティブな人間が多いため、常に何か新しいことを試みている」と言う。例えば、今年のAndy の審査員長はco: の創始者タイ・モンタギューとビックスペースシップのCEO マイケル・リボウィッツだったが、「広告業界はいま、急速に変貌している。マーケティング・コミュニケーションの成果を審査できるのはもはや広告界の人間だけではないはず」と、2 人はクラウドソーシングの広告会社ビクター&スポイルスの創始者ジョン・ウィンザーの助けを借りて、審査員の選択にクラウドソーシングを導入。メンバーを含むさまざまな人から、審査員候補者の名前を挙げてもらい、インターネット上で投票。投票数トップ25 人を審査員として選定した。狙い通り、選ばれた審査員には、広告界のクリエイターだけでなく、アーティスト、音楽家、作家、実業家など、さまざまな分野の人間が入っていた。「これまで、こんな編成の審査員は誰も見たことがない」とグリロは言う。だが、その審査員たちが選んだグランディー賞(最高賞)を見て、みんなびっくり。すでにカンヌを含むさまざまな広告賞に輝くワイデン+ケネディーの“ オールド・スパイス”が選ばれたのだ。「審査員のバックグランド、経験、知識に関係なく、素晴らしいキャンペーンは誰の目にも素晴らしく映るのだということが実証できた」とグリロ。
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