異文化からのエントリーの壁
ヒューズが最も同情するのは、西欧人にはよく理解できない文化の国の広告が国際賞で審査されるときだという。例えば日本や韓国、アフリカなど、西洋人がその文化にあまり接したことのない国の広告は、iPod の広告と同じような立場で審査される。例えば日本のACC 賞や広告電通賞、TCC 賞などの入賞広告は、「とても理解されないのではないでしょうか?」と、電通のクリエイティブ・ディレクター 平石洋介 は言う。そして、ACC賞のグランプリを獲った「梅の花」のCMと、米国の有名な映画スター、トミー・リー・ジョーンズが登場する「BOSS」のCMを見せてくれた。最近の日本事情に疎い筆者には、両方ともどこが面白いのか、ヒットする要因なのか、理解できないCM であった。「日本のように、ひとつの言語、ひとつの文化の中で生活する消費者にとっては、この2 つのシリーズCM は、ぴったりくる情感と雰囲気を持っている。もちろん、国際広告賞に応募することは考えられないが」と平石。
平石が国際広告賞の審査が、ローカル広告には向いていないと考えるのに対し、同じ電通のグローバル・ソリューション・センターのECD中山幸雄は、「僕の個人的な体験でいえば、国際広告賞の審査は、90%フェア」と言う。ショートリストに残り、入賞に値するかどうか審査されるとき、審査員の多くは真摯に作品がつくられた国の文化を理解する努力をする。「もし文化的な面でわからなければ、その国から来ている審査員に聞く、少なくともそれに対しネガティブな投票はしないなどの方法で、フェアにする努力をしている」と言う。カンヌライオンズを含むさまざまな広告賞の審査員を何度も体験している彼のこの意見は、国際賞にエントリーする人たちにとっては心強い言葉だろう。
時に“ 審査員男” と呼ばれるほど、国際賞の審査を行ってきたレオ・バーネット社のグローバル・クリエイティブ・ディレクター マーク・タッセルも、中山と同じ「フェア」を主張する。「ここ数年の間に広告賞の審査員は非常にソフィスティケイテッド(洗練)されてきている。彼らには表面的なものの後ろに隠れているアイデアを理解することができる」と言う。ストロベリーフロッグのECD ジェイソン・コックスボルドは、「国際広告賞で賞を獲るには、運がかなり関係する」と言う。「たまたまそのときの審査員の中に特定の文化を理解する人がいたり、発言力のある人がその作品に非常に好意を持ったりしたために入賞の幸運をつかむことがある」と言う。
一方、CP+B の新しいCEO/CCO アンドリュー・ケラーは、平石と同じように、「僕の体験では、フェアとは思えない」と言う。「デザインや色彩の感覚はそれぞれの国で大きく違う。国際賞が西欧という地理的環境の中で審査される限り、西欧のクリエイティブ作品が絶対に優位だ」と言う。この点が正しいか、間違っているかを実証するため、CP+B はある実験を行った。
(次ページヘ続く)