イケアで成功した環境経営はアメリカの中小企業では通用しないのか。米オハイオ州で老舗家具メーカーが廃業

このほど廃業を発表したアメリカの老舗家具メーカー「テイラー・カンパニー」は全米でも36番目に古い同族経営の会社。 中小企業としては先進的な環境配慮企業でもある。

オハイオ州地方紙のクリーブランド・プレイン・ディーラー(Cleveland Plain Dealer)が報じたところによると、オハイオ州ベッドフォードにある老舗家具メーカーのテイラー・カンパニー(The Taylor Companies)がこのほど廃業を発表した。同社は1816年創業、7代続いた同族経営企業だ。現在受けている注文の生産終了とともに、すべての事業を終えるという。

テイラーは、全米で36番目に歴史の長い同族経営企業。1923年にはカリフォルニアで、1973年と2006年にはミシシッピーでも製造を始めている。

CEOのジェフ・ボールダサリ氏は「2007年の12月以来、前例にない事態が続き、ビジネスが立ち行かなくなってきた」と述べている。同社は2004年にベッドフォードの再開発地(産業用地として使われたのち汚染除去された「ブラウンフィールド」)に新しい製造設備を導入し、同州から出る代わりに1世紀以上使われてきた古い設備を刷新した。

「ブラウンフィールド再生のインセンティブとして州は10年間にわたり85万ドル(約6800万円)の減税を約束した。しかし、テイラーは減税措置を受けず、代わりに18ヵ月以上にわたり、訴訟の支出を被ることになった。これが6億円の設備投資が必要な時期と重なった。さらに、2008年の景気後退で家具の注文が減り、オハイオ開発庁、カヤホガ・カウンティとベッドフォード市の支援を受けたものの、事業の立て直しに十分ではなかった」(ジェフ・ボールダサリ氏)

7代目の取締役、ブレット・ミールズ氏は「地域のコミュニティにとっても、テイラーの従業員の家族にとっても、そして私の家族にとっても悲しい結末です。努力不足が原因ではないのです。一緒に頑張ってくれた従業員の努力や献身なしでは、事態はもっと早く進展していたことでしょう。この新しい設備への移転は、私たちすべての心に約束された未来への希望を伴うものでしたが、結果はまったく違ったものになってしまいました」と述べている。

クリーブランド・プレイン・ディーラーは、ベッドフォードのダン・ポセック市長とハンク・アンジェロ課長が同社の負債処理と再建のため、金融機関に対して働きかけを行っていると報じている。一方、オハイオ州開発庁のスポークスマンは、クリーブランド・プレイン・ディーラーに「85万$の減税は州のプログラムではない。同社はそこを強調するが、それだけの問題ではない」と答えたという。

アメリカでは「環境」は訴求力がないのか。あるいは同族経営の成長の限界か

地元紙は、「テイラーの廃業は持続可能なコミュニティの喪失を物語る。同社は廃棄物をキャッシュに変え、グリーンな(環境調和型の)技術で設備を修復・再生する国のモデルになった」と締めくくっている。

同社は、北米サステナブル企業賞(North American Sustainable Enterprise Awards)を受賞するなど、環境優良企業。地元産の素材やリサイクル材の使用を促進、VOC(揮発性有機化合物)の低減や埋立廃棄物の削減など、環境配慮や製造工程の透明性・情報公開の向上に努めてきたことでも知られる。アメリカでは、環境配慮は訴求力がないのだろうか。あるいは、テイラーの廃業は、同族経営の成長の限界を示しているのだろうか。

同じく家具関連事業で環境経営を推進する企業の代表格としてはイケアが知られる。スウェーデン発祥で、家具といえばイケアというほど、世界中に浸透している。従業員数10万人超、売上高2兆円超の世界最大の家具販売店だ。1943年の創業当初は雑貨店だったが、のちに家具専門店に転身、その後独自のデザイナー、製造会社をもつようになった。

同社でも、植林材の使用、リサイクル材の活用、運搬時のエネルギー削減のため、製造拠点からターミナルへの輸送に鉄道を建設、販売店へのシャトルバスを運行するなど、川上から川下まで環境配慮に努めている。

送料の安さや顧客とのコミュニケーション、ライフスタイルの提案など、イケアの成功要因はいくつもあるがサービスの質が大きいとされている。また、グローバル調達や国際ハブ物流によるコストマネジメントに長けており、それが価格競争力につながっているという。森林資源を保全・活用し、再生可能エネルギーを推進しているなど、スウェーデンという国のイメージもイケアの環境配慮に説得力をもたらしている。

なぜ、アメリカの老舗テイラーはつぶれ、スウェーデン発のイケアは発展を続けるのか、簡単に答えを出すことはできないが、この対照は、あらゆる産業がグローバル競争にさらされているなかで、政府や自治体の土地利用や産業振興のあり方に重要な問いを投げかけていることは間違いない。

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